
「アルバイト募集、時給◯◯◯円」、「好きな時間だけ、パートタイムで働きませんか、時給×××円から」こんな広告やチラシを見ない日はありません。残念ながら、ぼくは若い頃、時給換算で働いたことがなかった。デパートの商品配送をしたことはあったが、それは配達個数でアルバイト代(給金)が決まっていた。時給がいくらというのは、ある人々にとっては死活問題であることは承知しています。一昨年だったかにようやく、全国平均が千円台に乗ったことが話題になりましたが、今年度の最低賃金改訂期を迎えて、いろいろと報道が飛び交っています。
本日のコラムは二件。いずれも最賃問題を扱っていた。現在は、全国一律ではなく、各自治体によって「最低賃金」が決められる仕組みですので、自治体同士のそれなりの駆け引きや裏をかく作戦など、実に多彩です。それであっても、結局はこの社会の色彩を色濃く映し出しているのですから、あまり褒められたことではない。いわく「後出しジャンケン」「抜け駆けの功名」「ビリにはなりたくない」「横並べでけっこう」などなど、多くの人々の生活がかかっている「賃金」を決める側の姿勢としては誠に残念と言うか、恥ずかしいと言うか。

高知新聞の「小社会」氏は嘆く。「最賃は国が示した目安額を参考に地方の労使が決めるが、今回は(徳島県)知事が大幅増を求め、官製色が濃くなった」「それに伴い目安額も形骸化した。本県など下位集団は、目安額を念頭に、単独最下位にならないことを優先して額を探る展開になりがちだ。こうした決まり方がこれから変わっていくかもしれない」と、まるで、ビリでなければ安いほうがいいという行政の消極的姿勢の暴露になっているのは、なんともいただけないと言うべきでしょう。秋田魁新報の「北斗星」氏曰く、「本年度の最低賃金改定を巡る他県の動きに、後出しじゃんけんが思い浮かんだ」と。他県に先駆けて、それなりの高賃金を狙ったつもりだったが、蓋を開けてみれば、「引き上げ額」は全国で最低だったと。「先に決めた秋田を超えておけば最下位は免れる。そんな意識が働いたようにも見えてしまう」と、秋田より一円高を狙った他県を詰(なじ)りたそうな気配です。
問題の本質はどこにあるのか。それを語るにはこの駄文では荷が重い、いや駄弁る材料にはならないのです。要は東京一極集中の直接・関節の原因・根拠でもあるということでしょう。さまざまな生活条件や環境を考慮すれば、時給額が高いか低いかだけをもって、その是非を決めることはできないと思います。ぼくにはそんな経験はないのでなんとも言えませんが、就活の際にもっとも注目されるのは「初任給」や「年収」などではないかとも思う。それならば、多くの人には短期決戦の勝負でもあるアルバイトなら「時給」が一円でも高い方に惹かれるということになるのかも知れません。

どこで働こうと、一律賃金であってほしいと願うのも当然です。でも、それぞれの地域の事情や生活環境の違いを考慮すれば、一律はおかしいということにもなるでしょう。それにしても、時給最高額のA地域と、最低額のB地域で格差が「一時間あたり43円」というのは妥当であるということはできないようにも思われます。「地域別最低賃金は、中央最低賃金審議会から示される引き上げ額の目安を参考に、地域の実情を踏まえて地方最低賃金審議会が審議・答申し、異議申し出などの手続きを経て決定される」(知恵蔵)もちろん、生活保護支給水準と比較してそれなりの金額が保証されるべきであることは当然で、雇う側の都合だけで、人材確保のためになりふり構わぬ、手前勝手の金額攻勢は認められないのは当然です。
本来ならば、世界の主要国における「最低賃金」水準との比較が欠かせないのですが、ここではそれは省略します。この三十年の政治・経済運営の偏りから、この社会のさまざまな指標は右肩下がりを続けていることだけは間違いありません。例えばニューヨーク市の「最高時給」と、この社会の「最低時給」を並べても何も語ったことにはならないし、並べること自体にそれほどの意味があるとは思えません。それでも、時々ネットなどで見ると、ニューヨークの街の、天ぷらうどん一杯が4千円とか5千円、ラーメンが3千円などと言われたり、アルバイトの月収が五十万、六十万などと聞かされるとと、彼我の差を歴然と見せつけられたように感じてしまうのも事実です。あるいはこのところの「インバウンド」の増加は、一体この社会の何を表しているかを考えてみる必要があるはずです。

ことは単なる「アルバイトの時給」なのではない、生活を維持するにふさわしい最低賃金(時給)の妥当性如何の問題です。人間らしい生活を維持するに足るだけの水準に達しているかどうかが問われる「最低賃金」という問題です。
日本国憲法(昭和二十一年憲法)第25条
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない

【小社会】「84円上げ」の風 台風10号が本県にのろのろと近づき、身構えつつ何とかやり過ごした先月末、実は隣県の徳島で強烈な「風」が起こっていた。今年の最低賃金(最賃)の改定で、全国でも過去に例のない「時給84円上げ」を決めた。▷確かに徳島では経済状況の割に最賃が抑えられてきたようだ。県民所得などの指標は全国中位以上なのに、2023年最賃は下から2番目。それが若者流出の一因なら看過できないのは当然だ。▷しかし、急激で大幅な賃上げは経営者も困る。その中で今回、他都道府県を25~34円上回るアップに踏み切り、時給980円は四国トップ、全国中位になった。この異例の対応を、ある全国紙は1面トップ記事で扱った。▷異例なのは額だけではない。最賃は国が示した目安額を参考に地方の労使が決めるが、今回は知事が大幅増を求め、官製色が濃くなった。▷それに伴い目安額も形骸化した。本県など下位集団は、目安額を念頭に、単独最下位にならないことを優先して額を探る展開になりがちだ。こうした決まり方がこれから変わっていくかもしれない。▷その意味でも、今夏の「徳島発・最賃台風」は台風10号に劣らず記録的なものになりそうだ。「84円上げ」の風は、特に四国で強く吹くだろう。なにせ地域の若者が「徳島で働こう」となりかねないのだから。最賃四国一の座を譲った香川、県内総生産四国トップの愛媛は黙っていまい。さて、その中で本県は―。(高知新聞・2024/09/07)
【北斗星】本年度の最低賃金改定を巡る他県の動きに、後出しじゃんけんが思い浮かんだ。本県の審議会は同水準の他県より早く54円引き上げて時給951円にすると決めた。国の審議会が示した引き上げ目安に4円上乗せしたが、引き上げ後の額は結果的に全国で最も低かった▼前年度最も低かった岩手は59円引き上げの952円で本県を1円上回った。本県と同額だった高知と宮崎も本県より1円高く引き上げて952円とした。先に決めた秋田を超えておけば最下位は免れる。そんな意識が働いたようにも見えてしまう▼本県では県外への労働人口流出を懸念する声がある。1円の差でも最下位の影響があるとすれば大変だ。日程を遅らせて他県の額を見て決めればよいとする考えもあるかもしれないが、制度の趣旨に照らすとどうだろう▼最低賃金を都道府県ごとに決めるのは、必要な生計費や企業の賃金支払い能力など地域の実情に合わせるためだ。よその額が結論に影響すれば労使の主張がむなしくなりはしないか▼最低賃金が最も高い1163円になる東京は家賃が高く、多くの生計費を要する印象がある。だが本県などでは車が必要な家庭がほとんどで冬用タイヤも欠かせない。暖房費だってばかにならない。地域差がある制度自体、是非が分かれるところだ▼県内市町村議会ではこれまで、最低賃金を全国一律とすることを求める意見書の可決が相次いでいる。現行制度への疑問が広がってきているのではないか。(秋田魁新報・2024/09/06)
● 最低賃金= 最低賃金法(1959年公布)に基づき、労働者に保障された賃金の最低額。労働条件を改善し、労働者の生活の安定や労働力の質的向上を図ることなどが目的。都道府県ごとに定められる地域別最低賃金と、特定の産業について設定される特定最低賃金の2種類がある。/地域別最低賃金は、産業や職種に関係なく、パートタイマーや学生アルバイト、外国人労働者などを含めた全ての労働者に適用される。派遣労働者には派遣先の最低賃金が適用されるため、例えば派遣元の企業が埼玉県にあっても、東京都にある企業に派遣されて働く場合には、東京都の最低賃金が適用される。最低賃金を支払わない場合には、罰則が定められている。/最低賃金額は、賃金や物価などの動向に応じ、ほぼ毎年改定されている。地域別最低賃金は、中央最低賃金審議会から示される引き上げ額の目安を参考に、地域の実情を踏まえて地方最低賃金審議会が審議・答申し、異議申し出などの手続きを経て決定される。また、最低賃金による収入が生活保護の給付水準を下回る「逆転現象」がしばしば起きており、2007年にはこの解消を目的として法改正が行われた。/15年度の改定では、地域別最低賃金の全国加重平均額は798円となり、引き上げ額は18円と単純比較できる02年度以降で最大の上げ幅となった。最高額は東京都の907円、最低額は鳥取など4県の693円で、引き上げ額は20円(愛知県・大阪府)~16円(24道県)となっており、都市と地方で大きな開きがある。(知恵蔵)
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