指導力不足というレッテルの効用?

 理不尽な教育行政を強引に実施した「都」知事。任期が終われば、また別の場面で悪さをするのかもしれない。「悪」の種は尽きない。己の力を誇示するために何でも使うのだ。でも乱され続けた学校の「現場」は一朝一夕では回復不能な事態に陥ってしまいます。そのために人生を狂わされてしまう教員も続出します。ぼくの友人も、その不誠実な行政の犠牲者になった。(蛇足 石川一夫さんも同時受賞されましたが、この直後にぼくは二度ばかり石川さんにお会いし、ゆっくりとお話を伺うことができました。いずれ機会を見つけて、その際の話をふくめて記述してみます。)記事の掲載は中日新聞。

 家庭科の履修内容は、社会科に匹敵するほどに、政府の姿勢が色濃く反映されます。市議会で私を批判したある議員は、「家庭科は料理・裁縫・家事・育児だ」と言い、「家庭科の時間に、全く別な裁判の事例とか・・・かけ離れた教材を使っているということが通常の家庭科から逸脱している」(01年3月16日、多摩市議会)(根津公子『希望は生徒』影書房)

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 君が代不起立で停職6カ月処分 東京都教委

 東京都教委は31日、卒業式で君が代斉唱時に不起立だったなどとして、都立養護学校の根津公子教諭(57)を停職6カ月の処分にした。同教諭は昨春に9回目の処分(停職6カ月)を受けており、免職の可能性も取りざたされていた。同教諭は処分を不服として都人事委員会に審査請求する。

 都教委によると同教諭は24日の卒業式で、校長の命令に反して君が代斉唱時に座り続けた。昨年10月には、君が代に反対するトレーナーを校内で着用し、校長の指示に反して着続けたという。(朝日新聞・08-03-31)  

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 《 私が初めて処分を受けたのは一九九四年三月、八王子市立石川中学校での九三年度卒 業式でのことで。「卒業式では『日の丸』を揚げない」とした職員会議の決定と、また「校長先生、『日の丸』を揚げないで!」という多くの生徒たちの声を無視して、卒業 式の朝、校長が揚げた「日の丸」を、私が下ろしたことによって処分を受けたのです》 (根津公子・同上)

 卒業式の直前(三月十四日)に校長と話し合う。それ以前の職員会議で「『日の丸』を揚げない」という案は否決(十九対二、保留二)されていました、が校長は「職務の遂行」を主張して、卒業式当時の「掲揚」をしようとしていました(もちろん、そのように教育委員会から強硬にに促されていた)。

 式の開始前にポールに「日の丸」を揚げる。生徒から「根津先生、降ろして」「先生、降ろそうよ」といわれ、「正しいことは一人でも勇気をもってやりなさい」と日頃から子どもに言っている手前、「降ろすしかないね」と行動に出た。

 校長はふたたび、旗を掲げようとする。「大勢の生徒が校長に抗議するなか、それでも校長は「日の丸」を揚げました。その時点で駆けつけた教頭は「揚がった国旗を撮らなくちゃ」と写真に収め、「校長さん、揚げた証拠写真は撮りましたから、もう行きましょうよ」と促した。ふたたび、生徒に乞われて根津は旗を降ろす。

  抗議に出かけた子どもたちとの話し合い?

 Aさん「校長先生には心がないんですか」

 校長、知らんぷり。

 Aさん「なぜ揚げるんですか」

 校長「指導要領にあるからだ。法律で決まっているからだ」

 教頭「だれが扇動したんだね、だれが」

 Aさん「扇動なんてされていない。扇動されて動くようなことはしない」

 Aさん「校長先生はいくら勉強ができても、人の心は持っていないんだ。校長先生が揚げなければ私たちは校長先生を尊敬できたけれど、これじゃできない。校長先生は、生徒に尊敬されたくないんですか」

 校長は答えず、生徒の顔も見ない。机の引き出しの録音テープを確認するばかり。

  Aさん「校長先生は教育委員会がそんなに怖いんですか」

 校長「ああ、怖いよ」

 Aさん「臆病なのか」

 校長「ああ、臆病だよ」(うすら笑いを浮かべて)

 Aさん「じゃあ、校長先生はバカだね。生徒がこんなに訴えているのに、校長先生はずっとへらへらしている。涙も流さない」

 すでに卒業式の開始時刻が過ぎていた。

 「学校長、祝いのことば」(これは秀逸でした)

 「卒業生に二つのことを希望します。その一つは、相手のことを考えて行動してほしい。みんなで決めたことは守りましょう。自分本位ではなく…。他の人のことはどうでもいい、こういう人は反発されます」

 その後、三月二十五日、八王子市教育研究所で事情聴取を受ける。新年度の四月八日、都教委笹塚分室で事情聴取。

 都教委の質問「教育公務員としてあってはならない行為であり、信用を著しく失墜するものである。このことについて、今後どのように責任をとっていくつもりですか」

 根津「教育公務員としてしなくてはならない行為を私はしました。生徒の信用を失墜したのは校長で、私は生徒の信用を得ています。…今まで通り、真理と民主主義を子どもたちと一緒に追求して行きたいと思います」

 処分は四月二十五日に下される。「減給十分の一、一ヶ月」

 翌年三月十八日の卒業式でも、校長は「卒業式では『日の丸・君が代』を実施しない」という職員会議の決定を無視して実施する。

 翌日、担任をしていたクラスの子どもの保護者に宛て「職員会議の決定を踏みにじった校長先生の行為を私は決して忘れはしない」によって八王子市教委から「訓告」の処分。

 九五年度卒業式(九六年三月)前日。何人かの生徒が校長に「『僕たちの卒業式だから校長先生の勝手で「日の丸」を揚げないでほしい』と要請したが、「『君たちの卒業式ではない。日本国の卒業式だ』と言われる。この後、校長は「『日の丸』は揚げない」と。

 九八年三月、授業中に配布したプリントが問題視された。市議会では根津を現場から外すように要請する発言(「指導力に問題がある」「一刻も早く異動させてほしい」「直接、授業に参加できないような形をとっていただきたい」)、これを受けたかのように市教委は「学習指導要領を逸脱している」として、訓告処分(八月)を下す。都教委は「処分するに至らず」としたにもかかわらず。十月には校長の職務命令が出される。  「自作プリントはすべて、少なくとも使用の二日前までに校長に見せ、許可を得る。家庭科の指導内容が把握できるよう、年間指導計画と単元毎の計画を提出する。随時、授業(学活・道徳を含む)を参観させろ」というものだった。「指導力不足教員」のレッテルが貼られるのは時間の問題でした。

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 元教諭の停職処分取り消し 君が代不起立、東京高裁(日経新聞・2020年3月26日 9:54)
東京都立学校の卒業式で、君が代斉唱の際に起立しなかったとして、2009年に停職6カ月の懲戒処分を受けた元教諭の女性2人が処分取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は26日までに、1人だけ処分を取り消した一審東京地裁判決を変更し、もう1人の処分も取り消した。賠償請求は一審同様に退けた。/ 一審判決は、2人のうち1人については、過去に懲戒処分の対象となった行為も踏まえたもので、相当だとして、処分取り消しを認めなかった。高裁の小川秀樹裁判長は、停職6カ月は免職に次ぐ重い処分で、慎重な検討が必要だと指摘。「積極的な式典の妨害行為ではなく、起立しなかったという消極的行為だ」とした上で、過去の行為は既に処分されていることも踏まえて「今回の処分は妥当性を欠き、裁量権を逸脱したもので違法だ」とした。/控訴審で処分取り消しとなった元教諭の根津公子さん(69)は記者会見し「信じられない、うれしい判決だ」と話した。〔共同〕

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投稿者:

dogen3

 語るに足る「自分」があるとは思わない。この駄文集積を読んでくだされば、「その程度の人間」なのだと了解されるでしょう。ないものをあるとは言わない、あるものはないとは言わない(つもり)。「正味」「正体」は偽れないという確信は、自分に対しても他人に対しても持ってきたと思う。「あんな人」「こんな人」と思って、外れたことがあまりないと言っておきます。その根拠は、人間というのは賢くもあり愚かでもあるという「度合い」の存在ですから。愚かだけ、賢明だけ、そんな「人品」、これまでどこにもいなかったし、今だっていないと経験から学んできた。どなたにしても、その差は「大同小異」「五十歩百歩」だという直観がありますね、ぼくには。立派な人というのは「困っている人を見過ごしにできない」、そんな惻隠の情に動かされる人ではないですか。この歳になっても、そんな人間に、なりたくて仕方がないのです。本当に憧れますね。(2023/02/03)