「したたか」ではなく「禁じ手」だ

【小社会】したたか これも里の5月の光景だろう。「テッペンカケタカ」―。ホトトギスのさえずりが聞こえるようになった。昼間の歌もよいが、真夜中の響きも渋い。◆日本人が古くから親しんできた鳥で、万葉集などにも詠まれている。ただし習性はかなりしたたかなようだ。ウグイスを欺いて托卵(たくらん)し、ひなも育ててもらう。ひなはウグイスより先にふ化して、ウグイスの卵を巣の外へ。結果、親ウグイスの給餌を独占する。◆初夏、托卵のために日本にやって来る渡り鳥でもある。さすがに印象がよくないと判断したのだろう。かつて岡山県が県の鳥に指定したが、キジに差し替えた逸話まである。◆ウグイスには托卵は迷惑だとしても、あくまで自然界の定め。生物たちにはむしろ、こちらの方が驚きかもしれない。ニジマスからキングサーモンを繰り返し産ませることに、東京海洋大の研究チームが成功した。◆キングサーモンは一生に一度しか産卵しないが、生殖幹細胞をニジマスに移植すると、ニジマスがサーモンの卵や精子を毎年作るようになるらしい。トビがタカを生むということか。◆魚を効率的に養殖できる画期的な技術ではある。本紙に「地球環境の急変で苦しい状態にある魚を守るためにも重要な技術だ」との意見も載っていた。ただ、自然界のルールを超えて進む科学技術には複雑な思いもする。ホトトギスの思いはきっとこうだろう。「人間のしたたかさには負けるよ」(高知新聞・2024/05/27)(左上写真・生まれたばかりのニジマスに生殖幹細胞を移植する様子)(東京海洋大提供)

 (ヘッダー写真は和歌山県東牟婁郡串本町の紀伊大島にあるクロマグロの飼育生けす)(写真提供:近畿大学)https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/food/h_vol91/

 「知らぬが仏ばかりなり」という。あるいは〈Ignorance is bliss.〉とでもいうか。知れば腹も立つが、知らないのだから、まるで仏のように穏やかでいられるというのだろう。もちろん、自分自身を「仏」に擬(なぞら)えるのは適切ではないし、まして、今どき「養殖」魚介類だ、「遺伝子組み換え」食品だと目くじらたてていては夜も日も明けないでしょう。野菜や果物は、それこそ、どれだけの品物(品種・種苗)が遺伝子組換えで生産されているか。クローン技術に関してはあまり話題にならないのは、それが採用されなくなったからではなく、その逆に至るところでクローン技術の応用が日常茶飯事になったからでしょう。

 ニジマスからキングサーモンを無尽蔵に、このニュースにぼくは驚かなかった。他の領域や分野で当たり前に行われていたことがニジマスに採用されただけという「陳腐さ」さえ感じました。早速、「ふるさと納税」の「返礼品」になっている始末。毎日の暮らしに欠かせない調味料や食材などの、その殆どが遺伝子工学の応用によって大量生産されています。厳密に「食の安全性」確保などということは、現実には不可能だというほかありません。飼育飼料や肥料はいうまでもなく、消毒薬や殺虫剤などの大量使用については、ほとんどが黙認されている状況です。そんなこと言ったって、「養殖」は大昔から行われてきたのだから、いまさら非難がましいことは言うべきではないという理屈が幅を利かせているのかも知れない。

 このような「生産技術」の応用は、この島だけの問題ではなく、世界規模で拡大・拡散している。それゆえに、一国や一地域が厳しい規制を敷いたところで、他国や他地域にはその効力が及ばないし、まして今や貿易や通商圏は世界の隅々にまで広げられています。一例として原発問題を考えてみます。ある地域に設置されている原子力発電所に「事故」が起こったとき、それがどんなに厳しい基準で認められていたとしても、それとは無関係に、被害は一地域を超えて、拡散し、永続します。遺伝子操作や遺伝子工学には厳格な指針が設けられているので、食料としても安心ですと、政府や当局がお墨付きを与えたところで、事故や被害者が発生すれば、だれもそれを止めることはできない。「これは危険です」と宣言して何かを始める人間はいないでしょう。「危険かどうか、それ不明だ」けれど、まず始めてみよう。権威の太鼓判ももらっているし、いつでもどこでも相撲取りか行司かがわからない人間がことを裁いているのです。あるいは「マッチポンプ」と言うべきか。

 ぼくは、これまでに十分すぎるほど「危険な食材」を摂取してきました。一品だけなら、しかも少量なら大丈夫と言われつつ、積年の弊害が一体どこに、どんな形で発生するか、起こってみなければわからないのです。時間が経てば、因果関係も曖昧にされる。ことは「キングサーモン」だけではない。それに代表される、営利主義と利権が絡まって、食の安全性が危殆に瀕しているのであり、それが多方面に広がれば、またまた「公害」の発生ということになります。農業が、気候や地勢に規制された「カルチャー(文化)」だった時代、それが今や、地域差や気候帯の差異を超越した「工業(文明・civilization)」に変貌しているのです。漁業も例外ではありません。漁獲を確保するために船を遠くまで運ぶ必要はなく、もはや陸地に設けられた工場内で「新たな漁業」が進められています。ニジマスからキングサーモンへと誇らかに謳う技術の進化は「高級なサケ類の養殖の効率化や、希少種の保護にもつながると期待される」「短期間で安定的な養殖が可能になる」、この「利点」(かどうかは疑わしい)は誰のものでしょうか。

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 (以下、参考資料)                                                              ● ニジマス代理親がサケ出産 東京海洋大、生殖細胞移植で成功 東京海洋大の研究チームが、一生に一度しか産卵しないキングサーモンの「生殖幹細胞」をニジマスに移植し、成長したニジマスからキングサーモンを繰り返し産ませることに成功した。高級なサケ類の養殖の効率化や、希少種の保護にもつながると期待される。/キングサーモンの精巣から、卵や精子に分化する生殖幹細胞を取り出し、生まれたばかりのニジマスに移植。ニジマスは1~2年で成熟すると、キングサーモンの遺伝子を持つ卵や精子を毎年作るようになった。/キングサーモンは成熟に3~7年かかり、産卵や放精は一生に一度だ。小型のニジマスを代理親にすれば毎年繁殖できるため、短期間で安定的な養殖が可能になる。(東京新聞・2024/05/25)(共同通信)

● 遺伝子操作 (いでんしそうさ)gene manipulation/広義には,生物の遺伝子およびその組合せを人為的に変化させること。最も古い形は,植物の栽培と動物の家畜化である。これは,自然集団から有用な形質を持つ個体または集団を選ぶことであったが,それによって集団の遺伝子構成が変化しただけでなく,育種が可能になり,以後の人為交雑への道が開けたのである。現代に至って,放射線や種々の化学物質が突然変異を誘起することが明らかになり,これらの変異原を用いた突然変異育種も行われるようになった。/遺伝子の実体がDNAであることが判明してからは,DNAを媒介にした分子育種も部分的には可能になっている。これが狭義の遺伝子操作で,遺伝子工学gene engineeringと同義である。この場合,DNAの供与体と受容体が同一種でなくともよく,いわゆる分子雑種が容易に形成できる。遺伝子操作は本来は無方向的である突然変異に方向性を与える技術であるとも言える。今のところは細菌や下等菌類が受容体として用いられているが,高等生物への応用も試みられつつある。しかし,それによって生じる生物が人間社会を含めた,生態系としての自然に与える影響が不明なので,この技術の応用には十分な注意を払う必要がある。(改訂新版世界大百科事典)

● 遺伝子工学【いでんしこうがく】=遺伝子操作技術を用いる生物学の1部門。主として組換えDNAとDNAクローニングの手法が用いられる。組換えDNAは1970年代に入ってDNA分子の塩基配列を切断する制限酵素(エンドヌクレアーゼ)が発見,単離されるとともに急速に発展した。1974年米国の研究者らは,エンドヌクレアーゼを用いてカエルのリボソームDNAとあるバクテリアの細胞質内遺伝子のDNAを切断し,両方のDNA断片をつないで〈組換えDNA〉を作り,これを大腸菌に感染させたところ,両者のDNAを細胞質にもった大腸菌ができた。また,1977年には化学的に合成した哺乳(ほにゅう)類のホルモンの遺伝子を大腸菌の細胞質遺伝因子に結合させ,大腸菌内でタンパク質合成を行わせ,ホルモンの生産に成功した。こうした遺伝子操作実験の成功から,遺伝性疾患の患者の遺伝子を組み換えて治療に役立てたり,高等生物のDNAを細菌内で増殖させ,自然では得がたい物質を多量に産生させることが可能になった。特定の遺伝子DNAのみを取り出して大腸菌内で増殖させると,単一のDNAを大量に得ることができる。これがDNAクローニングで,生物学・医学で広く応用されている。遺伝子工学には有害生物を生みだす潜在的な危険性があり,1973年米国のライフ・サイエンス部会はこの種の研究の自己規制と安全確認までの研究の一時停止を提唱したが,その後,遺伝子工学の研究,開発は全世界的に進展している。(百科事典マイペディア)

● 養殖【ようしょく】(aquiculture・raising culture)= 水産生物を飼養して,人工的に繁殖させること。水産生物の繁殖を自然の環境内で,技術的あるいは法令,規則などにより助長し,数量の増加を行うことは増殖と呼び,また漁獲された水産生物を区画された水面に飼養し,市場価格の上昇時に販売することは蓄養と呼んで区別する。養殖は内水面養殖(淡水)と海面養殖に大別。前者には池中養殖(コイ,ニジマス,アユ,ウグイ,ウナギ,キンギョ,各種熱帯魚,スッポン,ウシガエル),水田養殖(コイ,ドジョウ),粗放な溜池(ためいけ),干潟池,河川での養殖(コイ,ボラ,フナ)がある。後者には陸上の養殖池や廃止塩田を用いた池中養殖(クロダイ,ボラ,スズキ,クルマエビ),海面を堤防や網で仕切った区画養殖(ブリ,マダイ,トラフグ),筏(いかだ)や縄を用いた垂下式養殖(カキ,アコヤガイ,ホヤ,ワカメ,カイメン),網やそだ【ひび】建による養殖(ノリ,カキ),干潟や浅海面を利用した地撒(じまき)式養殖(カキ,アサリ,ハマグリ,サルボオ,ホタテガイ)がある。池中養殖では流水式,半流水式もある。ふつう,産卵,稚魚または幼生の育成,食用魚介の養成などは別々の場所で行われることが多く,成長は放養密度,投餌量,水温など環境条件により影響される。養殖業は日本において最も発達している。(百科事典マイペディア)

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 「商魂たくましい」といって感心していていいのかどうか。「山梨県水産技術センターが長年かけて開発した山梨県オリジナルの魚です」この「技術の勝利」と言ってみたくなるような成果は、決して第一次産業の分野に留まらないでしょう。いずれ、来たるべき日には「山梨県オリジナルのヒト」が生まれる・生み出されるに違いない。ニホンウナギの減少(少子化)は「養殖ウナギ」に取って代わられてくるでしょう。その更新はもう始まっています。この「少子化」阻止の決め手となる技術が、どこかで誰かが密かに(いや、堂々とか)実験室で行われていないとは言えないのではないですか。「こんな時代だから、それもしょうがない」とでも言っておきますか。山梨オリジナルの「富士の介」がニジマス✖キングサーモンから誕生するというのは「吉報」だとする向きがあります。そして「富士の介(デザイナーベビー)」は、魚であるとは限らなくなる時代にぼくたちは突入しているのでしょう。

【天に選ばれし、名水の地 富士吉田】
富士の麓の富士山湧水かけ流しで伸び伸び育ちました。
【富士の介とは・・・】
◆マス類で最高級とされるキングサーモンと山梨県で生産量ナンバーワンのニジマスを交配し誕生!
◇山梨県水産技術センターが長年かけて開発した山梨県オリジナルの魚です。
【美味しさの秘密】
◆【富士の介】はきめ細かい身質、ほどよくのった上質な脂、豊かなうま味が特徴の美味しい魚です。
◇キングサーモンの鮮やかな赤身でありながら、サーモン独特の臭みを感じない魚です。
◆うま味成分が、ニジマスに比べて約1.6倍!
【注意事項/その他】※沖縄(本島除く)および離島へのお届けはできません。
(山梨県養殖漁業協同組合:https://www.nashiyousyoku.net/fujinosuke.html#gsc.tab=0)

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