今はもう秋 誰もいない秋 淋しいか

 本日は「三本のコラム」です。まったく芸のない話で、他紙は「女性初の宰相」で持ちきり、その報道にはたっぷり悪質な胃酸が含まれていたので、ぼくはほとほと食傷(食当たり)(食中毒)してしまいました。口直しのつもりで「海の酸性化」と「青女(せいじょ)」と「霜降(そうこう)」とを並べて、三題噺(ばなし)ならぬ、三本の矢つ当たり(意味不明)です。気候変動、異常気象、地球温暖化が、海・平野・山に棲息する、諸々の生物たちをどのように虐げているかという問題の一端に触れてみたくなった次第。それにしても、この社会の新聞・テレビなどのメディアは、どうしてこれほどに愚かしいのでしょうか。何日か、あるいは何か月か、どれだけもつかどうかわからない「なま物」を、それも初物だからと、上を下への大騒ぎ。唾棄すべき「能天気」ぶりに、ぼくは辟易(へきえき)している。本当に下劣そのものでしかない振る舞いを見せつけられているようで、「いよいよあかんようになったなぁ」と、気息奄々(きそくえんえん)、つまりは息も絶え絶えなんですよ。

【余録】行を「ギョウ」、礼を「ライ」と読む呉音は漢音の前に伝わった南方系の中国音という。「塞翁(さいおう)が馬」などのことわざを生んだ前漢の書物「淮南子(えなんじ)」の読み方は呉音。日本書紀の天地開(かい)闢(びゃく)神話の種本といわれるから相当古い時期に伝来したのだろう▲百科全書的で中国神話も豊富だ。ここに登場する「青女」は霜の女神。秋と春に霜を降らせ、四季を分けたという伝承も残る。「青女月」は21日から始まった旧暦9月の別称である▲今日は二十四節気の「霜降(そうこう)」。秋が深まり「青女」が活躍する時期だが、近年、四季の区分が揺らいでいる。最近公表された三重大の研究では2023年までの42年間に夏が3週間も長くなったそうだ▲その分春と秋が短くなり夏冬の「二季化」が進んでいる。昨日は秋らしい天気の地方も多かったが、長期予報ではまだ高温傾向が続く。夏を二つに分け「五季」を提唱するアパレルメーカーもある▲柿が実り、菊の花が咲き、山々が色づく。温暖化が続けば慣れ親しんだ景色も変わる。「『四季がおかしい』などの肌感覚を重視する人ほど、気候変化と温暖化を敏感に感じることができる」(立花義裕・三重大教授著「異常気象の未来予測」)という指摘にうなずく▲夏が長くなったのは米国も同じらしいが、トランプ米大統領は相変わらず馬耳東風。船舶から排出される温室効果ガスの規制は米政権の横やりもあって先送りされた。四季を楽しむ機会が少ないのか。<霜降や地にひゞきたる鶏のこゑ/滝沢伊代次>(毎日新聞・2025/10/23)

 本日は「霜降(そうこう)」だと言います。中国の古い文献では霜を降らせる主は「青女(せいじょ)」という女神で、やがて霜のことを「青女」と言うようになったそうです。(前漢時代の淮南(わいなん)王の劉安の編著「淮南子(えなんじ)」による)(この「淮南子」についてもいくつか喋りたいのですが、本日は致しません)「『青女月』は21日から始まった旧暦9月の別称」とされています。昨日辺り、東北や北海道からは初雪の便りがありました。コラム氏は書く、「最近公表された三重大の研究では2023年までの42年間に夏が3週間も長くなったそうだ」とあるように、夏が長くなれば、その分のしわ寄せを受ける季節があります。春と秋ですね。春も秋も短くなったという実感は、ぼくなどにもあります。かなり前から、ぼくは勝手にこの地は「四季の邦」ではなく「二季の島」になったんですよと広言していましたから、諸々のデータはそれを証していると、心中は穏やかならず、いささか複雑です。「霜降(しもふり)(肉の部位)」だなどと喜んでいる場合ではありません。

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 昨日は、かなり寒かったので「鍋物」にしました。その食材は鮭や鱈でしたが、試しに牡蠣(かき)も用意しました。その小ささを見ていて、昔日の面影のなさには驚いたほど。「海の酸性化」がどれ程の影響、それも悪影響を魚介類に及ぼしていることか。事情を知ってみれば卒倒しそうになりますね。「大気中で増えた二酸化炭素(CO2)は海に溶け込み、海水の酸性度を上げる。酸性化が進むと、貝類や甲殻類は体の骨格や殻をつくる炭酸カルシウムを合成できず、成長が難しくなる。とりわけ敏感なのがカキである」とあります。昨日の牡蠣は宮城産とありましたが、事情は広島と同じでしょう。「牡蠣喰うて海の鳴く声耳に聞く」と、まるで駄句ですけれど、「私の耳は貝の殻 / 海の響きを懐かしむ」と謳ったのは泰西の詩人・ジャン・コクトーでした(堀口大學訳)。ぼくの耳は貝の殻ではないし、牡蠣は養殖ですから、海の響きは感じられないし、まして狭い生け簀で生涯を送る、いかにも「食用牡蠣」の悲哀を、それを口にするぼくも感じてしまいます。まして、その牡蠣が成長しないというのですから、口に入れるのも憚られます。

【天風録】海の酸性化 すし種(だね)として今世紀末に拝めるのは、かっぱ巻きのキュウリと卵焼きくらい―。冗談半分でそんなふうに見通す科学者もいる。マグロやタコは乱獲のせい、ホタテやエビは「海の酸性化」のせいで姿を消しかねないらしい▲大気中で増えた二酸化炭素(CO2)は海に溶け込み、海水の酸性度を上げる。酸性化が進むと、貝類や甲殻類は体の骨格や殻をつくる炭酸カルシウムを合成できず、成長が難しくなる。とりわけ敏感なのがカキである▲水揚げ解禁となった広島県産の養殖カキで成育不良が深刻という。「殻だけ、ぽんぽん捨てることになるなんて…」。本紙に載った打ち子さんの声がやるせない。冷え込みも増し、いよいよ旬が近づくというのに▲全体状況は判然としない。ただ、東京の日本財団と岡山市のNPO法人里海づくり研究会議などが3年前、こんなシナリオを示している。大気中のCO2濃度が上がり続ければ、今世紀末にはカキが育ちにくくなる、と▲酷暑による高い水温との「挟み撃ち」に遭った恐れもある。世界がこぞって脱炭素に急ぐべき時に、例の大統領は気候変動問題を「史上最大の詐欺だ」と言い張り、背を向けている。冗談は、ほどほどに。(中國新聞・2025/10/23)

 「大気中のCO2濃度が上がり続ければ、今世紀末にはカキが育ちにくくなる」という警告は聞く耳には届くのでしょうが、何とも物騒なことに、もっとも届いてもらわなければならぬ耳たちには行きつかないのです。海洋国というのにはいろいろな意味がありますが、海の幸に恵まれて来た東海の小島に棲む人間としても暢気に構えてはおれないはずです。事は牡蠣だけではないでしょう。海の異変は、ただちに海洋生物の生存に異変を齎しているのは事実であり、翻って、海山の幸を食用にしているぼくたちの生存にも小さくない影響が及んでいるのです。温暖化や、異常気象の原因や背景がわかりつつあるのに、まだ、「地球規模で確定」していない、反対論もあるのをいいことに、現状の環境汚染に輪をかけるような振る舞いに出ているのが、いわゆる経済大国です。その意味で、この劣島が「経済小国」になることは世界の環境状況の現状維持にとって、さらには、その保存のためにはいささかなりとも貢献するはず、あるいは貢献しているともいえます。「世界のてっぺんに」と、どこの誰が浮かれついでに狂言していのか。

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【談話室】▼▽朝夕の冷え込みが増して山々が色づいてきた。この時季は秋が「深まる」との表現を使う。その一方「冬が深まる」とは言わないように、他の季節には用いられない。なぜか。言語学者川添愛さんはこんな見方を示す。▼▽秋には、冬という寒くて暗い季節に向かって下がっていくイメージがあるからではないか―。冬はすでに「底」にあるから深まる要素がない。この理屈で考えると、対極にある真夏は「てっぺん」に位置付けられる。(タレントふかわりょうさんとの共著「日本語界隈」)。▼▽その「てっぺん」が近年のさばっているのは体感でお分かりだろう。科学的に証明されている。三重大によれば、夏の期間が1982年からの42年間で3週間長くなった。温暖化の影響で秋が短くなっている。「てっぺん」から「底」に向かって急降下という具合だろうか。▼▽きょうは二十四節気の「霜降」。文字通り霜が降りる頃とされる。鳥海山ではきのう初冠雪が確認された。冬の足音が近づいてきたが、まだまだ秋に去られては困る。紅葉の見頃は多くの場所でこれからだろう。今だけの深まりゆく季節を、できればゆっくりと慈しみたい。(山形新聞・2025/10/23)

 「談話室」という呼称が好きで、ぼくはこのコラムを見続け、時々読んできました。<lounge><common room>etc、このうちでも「コモンルーム」がいいですね。誰のものでもない、みんなのものという響きがあります。<common>はデモクラシーの鍵になる言葉です。そこから生まれたのが「コモンズ(mmons)」で、「共有地、公園、広場」などと解されています。あるいはパブリック<public>という言葉を使ってもいでしょう。「私(I)とあなた(you)」で「私たち(we)」が生まれますが、それがパブリック(公共の)であり、コモン(共通の)です。

 言葉の詮索はともかく、「鳥海山ではきのう初冠雪が確認された。冬の足音が近づいてきたが、まだまだ秋に去られては困る。紅葉の見頃は多くの場所でこれからだろう」とコラムニストは名残惜しそうに言われる、「今だけの深まりゆく季節を、できればゆっくりと慈しみたい」という気持ちはそれとして、霜も雪も降下を始めています。「秋は深まる」のはいいけれど、当節、気が付けば冬だったという具合で、秋の名残もほとんど感じられないままで冬至になっていたりする。それもこれも「地球温暖化(global warming)」でしょうか。異常気象とか気候変動というものが、地球環境のあらゆる場所に想定し得ない影響を及ぼしていることを、ぼくたちは素直に認めて、さて何ができるか、何をすべきかを具体的に、足元から始める時期でもあるのでしょう。

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(*「誰もいない海」越路吹雪https://www.youtube.com/watch?v=alhKgHAy964&list=RDalhKgHAy964&start_radio=1

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dogen3

▶この国には「政治」はなく、「政局」ばかり。議会制民主主義の筋をいうなら、現に政権交替がなされて当然の事態にあるとみられるが、弱小を含めた各政党は頽廃の現実を大肯定、かつ心底からの保守頑迷固陋主義派。大同団結といかぬのは「党利党略」が何よりの根本義だとされる故。何が悲しくて「政治」を志し、「政治家」を名乗るかよ。世界の笑いものになるのではない、定見のない「八方美人」には、誰も振り向かないという事実に気がつかないのだ。(2025/04/02)