

いまさら書くこともないものを、そう思いながら、いや待てよ、その当時もう少し関心を持っておれば、あるいは「魚」「海」に対する考え方は、もっと違ったものになっていたのではなかったかと、時々思い出したりする。まだ勤め人の頃、もう二十年以上も前のこと(2000年代前後)、務め帰りに日参・皆勤していた呑み屋での出来事。その少し前から、「さんまが獲れない」と亭主が言っていた。ここでは毎日、築地から仕入れていた。品書きは、亭主が自筆のものを張り出していた。なかなかの出来栄えだった。魚の筆頭は、もちろん「マグロ刺身千円」、「カツオ刺し身七百円」「サンマ一尾五百円」と言ったところが相場だった。ぼくは魚好きだったから、その日の上物を少しずつ頼むのが決まりだった。季節の物だから、カツオが一番だったり、サンマがそうだったり、イワシのときもあった。マグロは、あまり食べなかった。何れも「肴」として、酒の引き立てになるものを選んだ。酒は一貫して金沢の純米酒だった。▼ある時期、注文しようとメニューを見ると、サンマが「イの一番」に上がっていた。千円を越えていた。サンマがマグロやカツオよりも高価になったのだ。後にも先にも始めてのこと。亭主もそう言って、驚いていた(肴商売歴は半世紀以上の二代目)。まるで「笑い話」だったが、海の中では、実際には深刻な変化が起こっていたのだ。海水温度の上昇が言われだしていた頃だったか。多くの魚は回遊魚。自分に適した海水温を求めて常に泳ぎ回り、ある時期は、日本近海に寄り付かなくなったのだった。当時は、そこまで真面目に考えることもなく、サンマの高騰ぶりを酒の肴にして呑んだだけだった。▼先ごろ、水揚げのあったサンマは、一キロ14万円、一尾換算で1万6千8百円だったとか。ぼくが足繁く通っていた店で、サンマ一尾は300円ほどだった。この数年、ぼくはサンマをまず口にしない。酒をやめたついでに、サンマもその段階で堪能していたと思っている。(福島産だから輸入禁止というのも愚かなこと。福島で生まれそこで育つわけでもないのに、さ。海は誰のものでもないということをこそ、今もっと真剣に考えるべき時。それもあって、海洋投棄は「すべきではなかった」と想う。時間と費用はかかるが陸上で処理すべきだった。今からでも遅くない)(yamano satoshi)
(ヘッダーは北海道新聞・2022年9月4日:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/726011/)

【明窓】さんま、さんま バケツを「馬穴」と表記するなど、当て字が得意だった明治の文豪・夏目漱石は『吾輩(わがはい)は猫である』の中で、サンマのことを「三馬」と書いた。<さんま、さんま、さんま苦いか塩つぱいか。>のフレーズで知られる詩人で作家の佐藤春夫の詩『秋刀魚(さんま)の歌』が発表される16年前のこと。当時はまだ「秋刀魚」の表記が広まっていなかったようだ▼そのサンマの初競りが先日、札幌市の中央卸売市場であり、最高値は昨年の4倍の1キロ当たり23万円、1匹換算で2万8千円だったという。水産庁によると、今季のサンマの来遊量は過去最低の漁獲量だった昨年と同じく低水準の見込み。「秋の味覚」の先行きが心配だ▼記録的な不漁が続くサンマの漁獲量は昨年まで4年連続して過去最低を更新。ピークだった1958年の約32分の1にまで減少した。温暖化に伴い日本近海の海水温が上昇し、冷たい水を好むサンマが沖合に移動したことと、中国や台湾の大型漁船による公海上での漁も影響しているとされる▼唯一の明るい材料は、調整の結果、ロシアの主張する排他的経済水域(EEZ)内での漁が2年ぶりに実施できる見通しになったこと。これで漁獲量が少しでも増えるといいのだが▼落語『目黒のさんま』では、サンマの塩焼きは江戸時代から「庶民の味」の象徴だった。それが殿様が食べるような高級品になっていけば、味とは別の苦みが増す。(己)(上写真:漁港に水揚げされたサンマ=8月18日夜、北海道厚岸町)(山陽新聞デジタル・2023//09/05)

【初サンマ】 過去最高値「1キロ14万円」水揚げ日本一 根室市花咲港で”高級サンマ”初水揚げ…1匹あたり約1万6800円 記録的不漁が続くサンマが2023年8月18日から19日にかけ、北海道根室市と厚岸町で初水揚げされました。競りでは最高値で1キロ14万円の値がつきました。 / 根室市の花咲港では18日午後8時ごろ、太平洋の公海で棒受け網漁をした小型サンマ漁船1隻が戻り、19日朝、469キロのサンマを水揚げしました。 初水揚げとしては、2022年の花咲港の1隻260キロよりは多いですが、例年と比べて少ないということです。/ 根室市の花咲市場で19日午前7時から行われた競りでは、高いもので1キロあたり14万円の値がつきました。過去最高を記録した2022年の花咲港での初水揚げの最高値1キロ5万4000円を”大きく”上回りました。/ 市場関係者によりますと、最高値のサンマは約120グラムで、単純計算すると1匹あたり1万6800円ほどになります。ちなみに、この”高級サンマ”のほとんどは東京方面に出荷されるということです。/ 一方、厚岸漁港でも18日午後10時から19日0時にかけ、小型船3隻が戻り、約1.1トンのサンマを水揚げ。厚岸市場で行われた競りでは、高いもので1キロあたり約3万5000円の値がつきました。/ 水産研究・教育機構の調査によりますと、日本近海のサンマの資源量は約94万トンと推定され、2022年よりも20パーセントほど少なく、来遊量は「低水準」が予測されています。 8月20日には、主力の大型船の漁が解禁されます。(北海道ニュースUHB・2023・08・09)
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