【春秋】新しいパイを焼くこと 女性解放運動の先駆者は訴えた ジャーナリストには潜入取材という手法がある。期間工として自動車製造工場へ、看守として刑務所に。現場に身を置かなければ見えない真実を伝える。彼女の潜入取材は、女性の生き方を大きく変えるきっかけとなった▼米国のジャーナリスト、女性解放運動の先駆者グロリア・スタイネムさんが亡くなった。1963年、男性誌「プレイボーイ」が経営する高級クラブに偽名で潜入し、バニーガールとして働いた▼衣装は小さめで露出が多く、胸には詰め物を入れさせられた。男性客のための「商品」として、ハラスメントを受けながら低賃金で働かされる実態を記事化した。「女たちは皆バニーである」とのメッセージは反響を呼んだ▼雑誌「Ms.(ミズ)」を72年に仲間と創刊する。未婚でも既婚でも男はミスターだが、女はミス、ミセスと呼び名が変わる。女性は誰かの妻や娘ではなく一人の人間である。現状への異議を「ミズ」に託した。女性が作る、女性のための雑誌は熱狂的に支持され、偏見や固定観念による性差別を変えていく力となった▼後年、こんな言葉を残している。「フェミニズムとは、あらゆる場所に生きる女性の人生を公平にすること。既にあるパイを切り分けてもらうだけでは全く足りない。必要なのは、新しいパイを焼くことだ」▼世の中は公平か、新たなパイは焼かれているか。道半ばの世界で、先人は92歳の生を終えた。(西日本新聞・2026/09/24)

米女性活動家スタイネムさん死去、92歳 グロリア・スタイネムさん(米著名フェミニスト)2日、ニューヨーク市の自宅で死去、92歳。自身の財団がSNSで明らかにした。ロイター通信などが伝えた。半世紀以上にわたりフェミニズム運動をけん引し、13年に当時のオバマ大統領から、文民最高位の「大統領自由勲章」を授与された。/34年、中西部オハイオ州トレド生まれ。11歳の時に両親が離婚。うつ病を患った母親の世話を通じ、結婚が女性の選択肢や市民権を奪うとの考えを深めた。大学卒業後にジャーナリストの道を進み、71年に女性の自己啓発を促す雑誌「Ms.(ミズ)」を共同創刊。2000年に66歳で環境活動家の男性と結婚。「フェミニズムとは人生の場面場面において何が正しいかを選ぶ能力だ」との言葉を残した。(時事通信・2026/09/03)(ヘッダー写真は「Photo Researchers / Getty Images」)
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もう何十年も前、たった一度だけ、「エスカイヤクラブ」という「岡場所」に入ったことがありました。確か、都内新宿二丁目(の伊勢丹横)にあったと思う。もちろん、裕福な友人に誘われてのこと。以来、再びその手の店に入ることはなかった。この店の由来や「エスカイヤ」なる言葉は知っていました。ともかく、ぼくには場違いな「高級」とか、「バニーガール」という存在を知ったのでしたが、幸か不幸か、それ以上に興味を持つことはありませんでした。その後に、グロリア・スタイネムさんの名前を知ることになります。いくつかの雑誌を通してであり、日本の「女性解放」に大きな関心を持ちながら、その運動を推進する人たちを通してでした。やがて「ミス」と「ミセス」ではなく、「ミズ」という女性の呼称を知ることになりました。これもいくつかの雑誌を介してでした。もちろん、彼女の存在も知ってはいましたが、ぼくには、あまりにも古い「性」に関わる観念が付着していて、もろ手を挙げて賛同できる状態でなかったことを、その後に激しく悔いることになります。
(右上写真・「1963年のルポルタージュ『プレイボーイ・クラブ潜入記』のためにバニーガールに扮するグロリア・スタイネム。自らバニーガールとして働きながら、女性たちの労働状況を調査した」Photo: Bettmann / Getty Images」)

詳細は省きますが、週刊誌「プレーボーイ」(日本版)も何度か読んではいましたが、愛読するに至らなかったのは、深い理由があったとは、自分でも思われませんでした。読む気が続かなかったからでした。異性に対する好奇心を育てられたのかどうか、無知な青年にはほとんど理解できない問題でした。やがて、この社会にも「フェミニズム」という問題が話題になりだしてきたころ、たぶん「Ms.(ミズ)」という雑誌に遭遇したのだと思う。雑誌創刊は1972年だと言うから、その当時、ぼくの関心は別の方面に向かっていたようでした。結婚し、子どもができたが「夫婦」を世間並みに演じていたと時代でもあった。つまり、「人間が解放」されるという課題に対して、ぼくはほとんど無知だったということです。そして、いろいろな理由から、ぼくは、遅まきながら人間解放問題の歴史と現実に蒙を啓かれていきました。ほぼ1980年から90年代にかけて、四十台に入ってからだったと思う。
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(*「グロリア・スタイネム逝く ── フェミニズムを「自分の言葉」で伝えた92年 米女性解放運動の象徴、グロリア・スタイネムが9月2日、ニューヨークの自宅で死去した。92歳だった」Esquire:https://www.esquire.com/jp/culture/woman/a73610814/gloria-steinem-obituary-92/)

「プレイボーイ・クラブ潜入から伝説の雑誌『Ms.』創刊へ 米国の女性解放運動を象徴してきたジャーナリスト、作家、活動家のグロリア・スタイネムが9月2日、ニューヨークの自宅で息を引き取った。92歳だった。訃報は本人の財団の公式SNSで発表され、追悼の声はまたたく間にInstagramやXへ広がった。/スタイネムの名を世に知らしめたのは、1963年にプレイボーイ・クラブ*へ「バニー」として潜入し、女性従業員が性的消費の対象として扱われる労働の実態を告発した記事だった。以後、1971年にフェミニズム雑誌『Ms.』を共同創刊。女性が結婚や母性だけで語られていた時代に、仕事、政治、性、生殖、暴力、賃金格差といったテーマを正面から取り上げ、フェミニズムを「一部の勇気ある女性達」の言葉から、生活者の言葉へと引き寄せた。/* プレイボーイ・クラブ:『Playboy』創刊者ヒュー・ヘフナーが展開した会員制ナイトクラブ。女性従業員「バニー」が露出度の高い衣装で接客し、スタイネムは1963年に潜入取材して労働搾取と性的消費の実態を告発した」(↷)

「世界中から届いた追悼の声 彼女の死後、追悼は世代と分野を超えて広がっている。ヒラリー・クリントンは、スタイネムが自分自身のためだけでなく「後に続く無数の女性たちのために扉を開いた*」存在だったと振り返った。ジュリアン・ムーアは、映画『グロリアス 世界を動かした女たち』でスタイネムを演じるために彼女を学んだ時間が、自分がどう生きたいかの「手本」になったと綴った。オプラ・ウィンフリーもまた、女性がどれだけの場所を占めることを許されるかという文化そのものに挑んだ人物として哀悼の意を示している」(以下略)(同上)
<グロリア・スタイネムさん死去 米国からフェミニズム運動を牽引 米フェミニズム運動の先駆者であるグロリア・スタイネムさんが2日、米ニューヨークの自宅で死去した。92歳だった。自身の財団がSNSで明らかにした。「当時はセクハラという言葉すらなかった」 AP通信などによると、スタイネムさんは1934年、米オハイオ州で生まれ、60年代からジャーナリストとして活躍。72年には、女性の権利などを扱う雑誌「Ms.(ミズ)」を共同創刊した。人工妊娠中絶の権利や女性の職場での地位向上など、生涯にわたって男女平等を訴え続けた。スタイネムさんは「当時はセクハラという言葉すらなかった。それは単に人生(とはそういうもの)だった」などと語っていた。(以下略)(朝日新聞・2026/09/04)
◎ フェミニズム(feminism)= 女性解放思想,またその思想に基づく社会運動。19世紀末から 20世紀初頭にかけての第1期フェミニズムと,1960年代以降の第2期フェミニズムの二つに大別できる。第1期フェミニズムは,近代の平等の理念に基づいた人権概念を男性だけではなく女性にも拡張することを要求し,主として女性参政権の獲得を目標として推進された。第2期フェミニズムは,性差別の根源を制度ではなく性(男性と女性の性関係を核としたあらゆる関係性)に求めたラディカル・フェミニズムの出現によって特徴づけられ,思想や学問など社会構造のすみずみにまで浸透している男性中心主義を徹底的に告発し,女性の社会的・経済的・性的な自己決定権の獲得を目標として展開された。フェミニズムは「20世紀最大の思想的事件」といわれるほどまでに成長し,大きな影響力をもつにいたっている。(ブリタニカ国際大百科事典)
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蛇足 彼女に関しても、フェミニズムに関しても、十分に明らかにされないまま、ほとんどの課題が残り続けています。だから、そんなことに関心を持っても無駄だというのではありません。デモクラシーと同様、「水平へのあこがれ」を持続させることこそが、人間が賢くなる方向を指していると、ぼくは確信しているのですから、地平線に向かって歩き続ける、そんな覚悟のようなものが必要だと思っています。
(この追悼文のような駄文をもっと早い段階で書くべきだったが、いろいろと思うところがあって遅れました。昨夜、日本の首相が米国大統領との会談に臨む直前の映像を見て、女性であることを、これほど「下品」に、かつ「擬態」をもって世界中に見せつけていいのかという、ある種の悲しみと恐ろしさが湧きました。それでだったか、スタイネムさんへの想いが大きくなったのでした)(*日米首脳会談 高市早苗総理がトランプ大統領と会談 /「日米同盟の強さを示す」)(2026年9月23日):https://www.youtube.com/watch?v=vwl0vYFjSAU)
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