栄耀栄華も人の金、…あとは野となれ大和路ゃ

【日報抄】ドイツの男子サッカー1部リーグ、ウニオン・ベルリンの監督に今春、マリールイーズ・エタさんが就いた。シーズン中の交代ながら、欧州5大リーグ初の女性監督となった▼負け越していたチームで残り5試合だけの指揮だったとはいえ、2勝2敗1分けの成績を残した。伝統ある欧州のサッカー界に風穴を開ける抜てきだったといえる▼その欧州では、多くの王室が男女を問わない長子優先の王位継承制を採る。1980年ごろから、男女平等や王室維持の観点から法改正が相次いだ。オランダもベルギーも現在、王女が継承順1位となっている▼日本では時計の針が止まっているのだろうか。皇室典範の改正案が参院できょう審議入りするが、皇位の「男系男子」継承の存続を強くにじませる内容だ。2年前に国連の女性差別撤廃委員会が皇位を男子に限る日本の皇室典範は改正すべきだと勧告したが、日本政府は抗議し、拠出金拒否の対抗措置を取った経緯もある▼人口減少に直面する国内各地で「女性に選ばれるまち」を目指しジェンダーギャップの解消などが掲げられる。ただ、多くは少子化対策の文脈で語られがちだ。「子どもを産んでほしいだけという思惑が透けて見える」と女性側の不信感も聞こえる▼戦時中、女性は労働力を補うために動員され、戦後は再び家庭や補助的役割に押し戻された。女性を「男性を補う駒」としてしか見ないような風潮が根強く残る。未来を担う若い世代の目にこの国はどう映っているだろう。(新潟日報・2026/07/15)

 このところ二度三度と「後は野となれ山となれ」という、一種の捨て台詞を使っています。「勝手にしやがれ、後はどうなとなるがいい」という、まさに「開き直った」見苦しい、あきれ果てた態度というべきでしょう。このセリフの源は浄瑠璃「冥途の飛脚」中の「栄耀栄華も人の金、果は砂場をうち過ぎて、あとは野となれやまとぢゃ、足にまかせて」にあるとされます。飛脚問屋の忠兵衛がタイマイの金を盗んで遊女梅川と逃避行。その際に吐いたのが「あとは野となれ大和路や」でした。(ぼくはこの浄瑠璃は何度か文楽のテレビ番組で鑑賞したものでした)

 今、永田町では令和版「冥途の飛脚」が上演されています。舞台も終幕近く、齢八十数歳の「亀谷忠兵衛(A副総裁に擬せられる)」と、奈良出の遊女「梅川(T総裁に瓜二つとも)」の、文字通りの「道行き」が終幕を迎えているのです。幕間には、すったもんだのさまざまな「出入り」がありましたが、いよいよ令和版「冥途の…」は佳境に入り、大団円となる予定。(*「(道行き) 浄瑠璃や歌舞伎で、主として男女が連れ立って旅行などををする場面。また、その所作。駆け落ちや心中などの場合が多い。」デジタル大辞泉)

 この後は、「冥途」(「仏語。死者の霊魂の行く世界。あの世。地獄・餓鬼・畜生の三悪道をいう。冥界。黄泉。よみじ」同前)に移り、まさに「黄泉(よみ)の国」の場面へと展開します。そこは、おどろおどろしい「ヨモツシコメ(別名サナとも)」もいる異郷の世界。機会を改めて語ることがあるかもしれません。まずはその前段階で、永田町劇場「冥途の飛脚」をご笑覧くだされ。(ただ今、7月15日、午前8時。室温28.7℃、湿度79%。パソコン部屋には冷房機(エアコン)なし。やがて、「高温注意」の警告音がパソコンから鳴り出す予定。大事になる前に、「これにて、本日の打ち止め」)(写真右は「島根県松江市東出雲町にある黄泉比良坂(よもつひらさか)」です)

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◎ めいどのひきゃく【冥途の飛脚】 浄瑠璃。世話物。三巻。近松門左衛門作。正徳元年(一七一一)頃、大坂竹本座初演。大坂の飛脚問屋亀屋の養子忠兵衛は遊女梅川になじみ、金に困っていることを友人八右衛門に暴露されて逆上、公金三百両に手をつけて、梅川とともに郷里新口(にのくち)村に逃げ、実父に別れを告げるが、捕らえられる。近松の代表作の一つ。八右衛門を敵役にした改作がしばしば上演される。梅川忠兵衛。梅忠。(精選版日本国語大辞典)

あと【後】 は 野(の)となれ山(やま)となれ=[初出の実例]「栄耀栄華も人の金、果は砂場をうち過ぎて、あとは野となれやまとぢゃ、足にまかせて」(出典:浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)中)(当面のことさえ済めば、その先のことや、その結果はどうなってもかまわない)(精選版日本国語大辞典)

◎ 冥途の飛脚 (めいどのひきゃく)= 人形浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。1711年(正徳1)3月《新いろは物語》の切浄瑠璃として初演されたという(《外題年鑑》)が確証はない。ただ,同年の初秋以前に,大坂竹本座で初演されたものと推定されている。実説の詳細も不明であるが,世間の評判となった事件らしく,浄瑠璃にも歌舞伎にも先行作がある。大和新口(にのくち)村の百姓孫右衛門の子忠兵衛は,訳あって大坂の飛脚宿亀屋の養子となり,商才を発揮していた。しかし,新町槌屋の遊女梅川になじみ,遊興費にも事欠く有様。その梅川に身請け話が持ち上がり,忠兵衛は向うを張って梅川を請け出そうとする。金に困った忠兵衛は,友人丹波屋八右衛門のもとに届けられた為替金五十両を着服,手付けに当てる。事情を知った八右衛門は,忠兵衛の行く末を案じ,廓に行って一切を語り,彼を寄せつけぬようにと頼む。それを立ち聞きした忠兵衛は立腹し,男の面目を立て,梅川の無念を晴らそうと,懐中していたお屋敷の為替金三百両の封を切って八右衛門にたたきつけ,梅川を請け出して新口村に落ちて行く。2人は孫右衛門によそながら別れを告げて逃げ延びようとするが,捕らえられる。本作以後,《けいせい恋飛脚》や,それを歌舞伎化した《恋飛脚大和往来(こいびきやくやまとおうらい)》(〈こいのたよりやまとおうらい〉とも。通称《梅川忠兵衛》《封印切》《新口村》。1796年1月大坂角の芝居)などの改作が現れたが,いずれも八右衛門を敵役として強調しているため,一途ではあるが破滅的な忠兵衛の愛を描く原作の焦点はぼけてしまっている。(改定新版世界大百科事典)

◎ 冥途の飛脚(めいどのひきゃく)= 浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節。世話物。三段。近松門左衛門作。1711年(正徳1)大坂・竹本座初演。当時実在した飛脚屋の為替(かわせ)金拐帯事件に基づく「梅川(うめがわ)忠兵衛」の情話を脚色したもの。大坂・淡路町の飛脚問屋亀屋(かめや)の養子忠兵衛は、新町槌屋(つちや)の遊女梅川となじみを重ね金に窮し、友人の丹波屋八右衛門(たんばやはちえもん)に借金50両を融通してもらう。八右衛門は忠兵衛の将来を案じ、新町の揚屋で遊女たちに一件を披露し、廓(くるわ)から彼を遠ざけようとする。しかし、偶然廓に来て立ち聞きした忠兵衛は、かっとなり侍屋敷に届けるべき為替金の封印を切って、50両を八右衛門にたたきつけ、残りの金で梅川を身請けする。忠兵衛は梅川とともに故郷新口村(にのくちむら)へ落ち延び、実父孫右衛門によそながら対面し、裏道から逃げようとしたが途中で捕らえられる。激情型の忠兵衛と可憐(かれん)な遊女梅川との情愛を細やかに描いた名作。改作には浄瑠璃に紀海音(きのかいおん)の『傾城三度笠(けいせいさんどがさ)』、菅(すが)専助らの『けいせい恋飛脚(こいびきゃく)』、歌舞伎(かぶき)に『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)』などがあり、舞台ではもっぱら改作の「封印切」「新口村」が演じられていたが、最近は近松の文学性尊重の立場から、原作どおりに上演されることも少なくない。(日本大百科全書ニッポニカ)

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