「台湾有事は日本有事」との浅薄愚劣

 今から54年前の本日(5月15日)、「沖縄返還(本土復帰)」の日でした。とてもよく記憶しています。ぼくは、もともとが「琉球共和国」としての独立論に与していましたから、「本土並み返還(復帰)」が実現したとしても事態は米国占領の現実は変わらないどころか、極東の軍事基地の役割はさらに増大するであろうという、素人の政治論が、満更でもなくなっていく、その後の状況を見てきました。以来半世紀以上が経過して、事態はさらに「植民地化」が進行し、国や自治体の「独立」「自治」が皆無に等しい状況になっていることに、腹立たしい思いが募るばかりです。いわば、「沖縄切り捨て」論がこの国の主流となってきたのでした。

 「沖縄返還の日」にふさわしい主題かどうか、ぼくには判断できませんが、映画「誰がために憲法はある」に関するコラム「金国木舌」と、もう一つのコラム「春秋」の「老漫画家の問い」を合わせ読んで、素人なりの素朴な思いが募りました。そして、時あたかも北京で行われている「中米首脳会談」の報道にかかわらせて、日本政府や与党の議員たちの驚くべき「時代錯誤(anachronism)」に激しい怒りを覚えると同時に、「落胆」の深さを、改めて思い知らされています。さらに、もう一つのコラム「筆洗」に描かれていた一外交官の「日中正常化交渉」時に述べた(抱いた)「中国はすごい国だ。あくまで悪い意味で」という、これまた無反省な「外交感覚」に驚きを禁じえませんでした。これについては後述。

(ヘッダー写真《復帰の日、沖縄のカメラマンは泥水の地面を撮った【3月13日】 沖縄の要求を無視した「復帰」に抗議する復帰協主催の5・15県民総決起大会。「屈辱の日」を象徴するような土砂降りの雨だった》=1972年5月15日、那覇市・与儀公園」)(沖縄タイムスプラス・2021/03/13)

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【金口木舌】憲法くんの声に耳を… 「変なうわさを耳にしました。本当でしょうか。私がリストラされるかもしれないっていう話」。先日、沖縄市のシアタードーナツで見たドキュメンタリー映画「誰がために憲法はある」は、こんなせりふで始まる▼語りの主は俳優の渡辺美佐子さん演じる「憲法くん」。元々は芸人の松元ヒロさんが一人語りで日本国憲法を擬人化した作品。映画は憲法くんの場面と、渡辺さんらが33年続けた原爆朗読劇の場面で構成する▼戦争の悲劇を繰り返さないために生まれた憲法くん。「皆さんに頑張れと言われれば、まだまだ頑張る」と意欲を見せるが、国民はどれだけ憲法を活用できただろうか。私たちへ投げかけられた問いだ▼国会では改憲勢力の前のめりな動きが目立つ。与野党の議論を踏まえ、衆院法制局が作成した素案は、緊急時に内閣が法律に代わる「緊急政令」を制定できる条文も入った。憲法くんの危機感はさらに高まりそう▼「誰がために―」上映は休館を挟み6月17日まで。平和憲法の下へ還(かえ)りたいと願い、沖縄が日本へ復帰して54年。そもそも憲法とは何か。リストラする前に再度、耳を傾けてみよう。(琉球新報・2026/05/15)

 「憲法くん」については、これまでにも何度か触れました。「テレビで会えない芸人」と称される松本ヒロさんの持ち芸です。ネット番組で、ぼくは何度も見ました。「お笑い芸人」が、汗をかき涙を流さんばかりに「憲法」を演じるとは、それこそ「前代未聞」だったでしょう。映画は、冒頭「変なうわさを耳にしました。本当でしょうか。私がリストラされるかもしれないっていう話」と語る渡辺さんの声音を聴いていて、こういう人たちが「憲法」を「憲法」たらしめているのだと、ぼくは涙ぐみながら、感じ入ってしまうのです。

 それに反して「憲法改正」を声高に叫ぶ政治家連中、中でも先頭を切って「この劣島を強く豊かに」と拳を挙げているのが現首相です。その根拠は「台湾有事は日本有事」という、時代認識の外れた政治観であったことに間違いないし、「台湾有事」の発生源は「中国北京政府」の台湾占有欲だと断言するのです。中国にはそれぞれ独立した二国があり、「中国北京政府」と「中国台湾政府」、とでも言いたげな表現を恥ずかしげもなく用いて、いささかの悪びれる様子もありません。歴史の事実にいささかも立脚しいないのは恥ずべきことでしょう。この発言を聴いていて、「台湾は日本の植民地」であるかのような錯覚を彼女は持っているのではと、ぼくは痛感した。「外交音痴(diplomatic ignorance)」どころの話ではないのです。

 (⁂ 映画「誰がために憲法はある」予告編)https://joji.uplink.co.jp/movie/2026/32058

 ここで、ぼくは森鴎外の評論「歴史其儘と歴史離れ」(「森鴎外全集 14」所収、ちくま文庫・ 1996)を思い出しています。詳しくは書きませんが、「歴史を扱って、歴史離れを起こしている」という鴎外の自作評に、いまなお「歴史と歴史離れ」を混同する向きが、小説家ではなく、政治家に多くいるという印象を強くしたがためでした。現首相は「歴史(其儘)嫌い」であり、「歴史離れ(神話の類)好き」人間であると、ぼくは以前から思っていました。彼女は「満州事変」に発する「日中戦争」は事実であると仕方なく認めるかもしれませんが、「日米戦争」はなかったと信じているはず、そんな感想を、ぼくは強くもっているのです。でなければ「中国が大嫌い」が理解できないし、アメリカ大好きも理解できません。「神話」と「歴史」を都合よく混同していると言い換えてもいいでしょう。歴史とは「過去と現在との対話」であるという、歴史認識はいささかも持ち合わせていないのです。文字通りに「神国」日本(ニッポン)を妄信していると。

【春秋】老漫画家の問い 世界中の視線を北京に集めている米中首脳会談。注目されたイラン情勢の行方や台湾との関係は、今の沖縄にとっても切実な問題だ。沖縄に駐留する米海兵隊2500人は中東へ派遣されている。中国の海洋進出を念頭に、日本政府は南西諸島の防衛力強化を進める▼その沖縄はきょう、本土復帰から54年を迎えた。本土ではほぼ無名の漫画家、新里堅進(しんざとけんしん)さんは半世紀にわたり沖縄戦を描いてきた。昨夏刊行した912ページの分厚い作品集「ソウル・サーチン」が沖縄で売れ続けている▼終戦翌年、那覇に生まれた。家の壁には弾痕、道端には銃弾が転がり、町には心身を病んだ人の姿があった。沖縄戦の深い傷の中で育った。高3の時、師範学校生の手記「沖縄健児隊」を読んで衝撃を受け、漫画家を志した▼家電の営業、タクシー運転手、基地の警備員と職を変えながら原稿を描きため、30代でデビューした。手塚治虫に褒められたこともある▼ひめゆり学徒隊をはじめ、沖縄の史実をいくつも描いてきた。米兵も日本兵も住民も同じ人間という視点はぶれない。「1線でも1こまでもいいから早く描け!」と目に見えない存在がせき立てるのだと話す▼世界が軍事力の強化へ傾く時代に、再び前線へ押し出されようとする島。戦没者の警告を後世に伝えるべく、老漫画家はペンを走らせる。沖縄が復帰した日は、20万の命がなぜ失われたのかを問う日でもある。(西日本新聞・2026/05/15)

 「沖縄に駐留する米海兵隊2500人は中東へ派遣されている。中国の海洋進出を念頭に、日本政府は南西諸島の防衛力強化を進める」「世界が軍事力の強化へ傾く時代に、再び前線へ押し出されようとする島。戦没者の警告を後世に伝えるべく、老漫画家はペンを走らせる」(「春秋」)おそらく、現首相の意識下では、沖縄もまた関心の外にあると思う。これまでの発言を聴いていても、彼女には人間・個人にはいささかの興味もなく、もっぱら「国」「国家」が何よりも大事という夢物語(観念)が巣くっているのだと思う。自衛隊を軍隊にし、敵国を叩きたいという、好戦性・政治欲はどこから来るのか。驚くばかりの観念論者で、「国柄」を持ち出し、「靖国」を持ち出し、「国歌・国旗」を持ち出し、「家父長制」を持ち出し…。この人の意識は百年前あたりで「寸止め」されているのでしょう。「沖縄が復帰した日は、20万の命がなぜ失われたのかを問う日でもある」とは、この総理大臣には思いもよらないことだと断言していい。

【筆洗】中国はすごい国だ。あくまで悪い意味で。1972年、日中国交正常化交渉のため田中角栄首相の訪中に同行した外務官僚栗山尚一さんはそう感じたという▼日中共同声明調印にこぎつけ、車で空港に向かうと群衆が沿道で旗を振っている。同乗する中国の役人は「人民が正常化を歓迎して、祝意を表している」と説明したが、調印のわずか数時間後。詳細を知らない庶民が動員されたのは明らかだった▼交渉の行方が見通せなかった北京到着時は、沿道は警官のみ。全体主義国家は国民を簡単に動かせるらしい(服部龍二著『日中国交正常化』)▼北京であった米中首脳会談。並んで歩くトランプ大統領と習近平国家主席の前で、国旗や花を持つ子どもたちがピョンピョン跳ねていた。全身で表す「熱烈歓迎」。日本でやれば、子どもを使った過剰演出と炎上必至だが、中国では許され、何よりトランプ氏はこういうのが好きそう。「子どもたちに特に心を打たれた」と喜んでいた▼わが宰相の台湾有事を巡る発言以降、訪日中国人観光客は激減し、中国のレアアース(希土類)輸出が規制されるなど日中関係が冷える中で見た米中首脳の笑顔。少し複雑な思いはした▼72年、帰国する角栄氏らに「中日両国人民の友誼万歳」という横断幕が掲げられたという。万歳や過剰演出は不要だが、両国の民はもっと自然に付き合えぬものか。(東京新聞・2026/05/15)

 ここで触れようとしている、元外務官僚の栗山さんが抱いた「中国はすごい国だ。あくまで悪い意味で」という感覚は、多くの人がもつものだったかもしれない。共産主義国特有の「動員」「やらせ」、例の北朝鮮になじみのある、と。確かにそうかもしれないけれど、それだけの「僻目(ひがめ)」で、政治や外交ができるんですか、という素朴な疑問をぼくは持つ。戦時中の日本はもっと激しく「国家総動員法」があったのではないですか。

 「北京であった米中首脳会談。並んで歩くトランプ大統領と習近平国家主席の前で、国旗や花を持つ子どもたちがピョンピョン跳ねていた。全身で表す『熱烈歓迎』。日本でやれば、子どもを使った過剰演出と炎上必至だが、中国では許され、何よりトランプ氏はこういうのが好きそう。『子どもたちに特に心を打たれた』と喜んでいた」とあります。

 ここで唐突に持ち出してもいいでしょうか。「台湾有事は日本有事」で、その時は「米国が来援」し、「台湾防衛」に行動を起こすだろう。まさに台湾有事は日本有事だと、現首相は国会で述べた。まるで「米中戦争」「日中戦争」が不可避であるかのごとく、「戦争」を待望しているかの如くに聞こえました。愚かさの極みは図異称に出ています。言か、原油不足でなけなしの「備蓄」を食いつぶしているのに、それを亡き者にしたいのか、補助金を出してまで石油(ガソリン)消費を観賞している始末。このままでは「補正予算」が必要といわれ、それは無用と、いっぱしの口をきいていたが、ここにきて「補正」もやむなし。彼女には「知性」の備蓄は初めからなく、さりとて、せっせと備蓄を増やす算段に取り組むかと思いきや、一人、公邸に籠って「ヘビースモーカー」だという。「健康のために吸いすぎに注意しよう」というのは政府広報ではないかといっても、花から聞く耳を持たない「ミミナシサナエ」だという。

 「中国北京政府が台湾を支配下に置き」云々とまで述べていた、その政治・外交感覚(sense)が無に等しいものだったことが、いまさらに判明したでしょう。アメリカは「台湾有事」に軍事力を動員しないことは、それまでの政治状況からもわかっていたが、今次の中米首脳会談で、その事実を明確に裏書しました。外務省の選り抜きが、はしなくも中国への「偏見」を隠さないという悍(おぞ)ましさ。かかる外務官僚が、政治家と二人三脚で歴史を踏み外したという事実を、ぼくたちは忘れてはいけないと思う。アメリカは日本を見放しているのに、気が付かない鈍感さ。なによりも、嘘八百の口から出まかせを、全うな政治発言と心得違いをしている、性根を直す真面目さが首相には著しく欠けています。

◎ 栗山 尚一(くりやま たかかず、1931年8月2日 – 2015年4月1日)は、日本の外交官、外務省官僚。外務事務次官、駐アメリカ合衆国大使、駐マレーシア大使。父親はベルギー大使などを務めた栗山茂。(Wikipedia)

 台湾対応誤れば「危険」と習氏 米大統領に警告、海峡開放で一致 【北京共同】トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は14日、  北京の人民大会堂で会談した。中国外務省によると、習氏は台湾問題で米側が対応を誤れば、衝突し「関係が危険な状況に向かう」と警告した。米政府当局者によると、両首脳はイラン情勢を協議し、エネルギーの流通を支えるホルムズ海峡について開放の必要性で一致した。トランプ氏は会談後の夕食会で、習氏を9月24日にホワイトハウスに招く意向を表明した。
 トランプ氏の訪中は1期目の2017年11月以来約9年ぶりで、国賓待遇。両首脳は15日、昼食を取りながら再び会談する。トランプ氏は今回、中国による米国の農産物やエネルギー購入を取り付けたい考えだ。
 習氏は台湾が米中関係で「最も重要な問題だ」と訴えた。「台湾独立と台湾海峡の平和は相いれない」とし、米国による台湾への巨額の武器売却も含めて台湾問題の扱いには「慎重を期す」よう求めた。米中は「パートナーとして共に栄えるべきだ」と表明。トランプ氏は「中国と米国の関係はかつてないほど良くなるだろう」と応じた。(共同通信・2026/05/14)

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