
【日報抄】出歩くと、頰をなでるそよ風が心地よい時季になった。風という言葉には、それらしい態度やそぶりを示す意味もある。先輩風、役人風というように▼「都会風を吹かさないよう心掛けてください」。福井県のある町の広報誌に1月、こんな「提言」が掲載された。町外からの移住者に向けた心得をまとめたものだ。「多くの人々の注目と品定めがなされていることを自覚してください」とも▼プライバシーに深く立ち入らない、迷惑をかけない限り自由な生き方が許される-。そんな都会のドライな生活に慣れた人にとっては、いささか面食らう内容かもしれない。一部から批判の声が上がるなど物議を醸した▼地元の人にも言い分はある。高齢化が進み、集落の行事が少なくなった。「隣は何をする人ぞ」の風潮が広がり、このままでは町民の絆が失われかねない。そんな危機感を抱く人もいたという。U・Iターン促進を掲げる本県も人ごとではない▼田舎と町のネズミの寓話(ぐうわ)を引くまでもなく、それぞれの暮らし方には一長一短がある。時代とともにライフスタイルは多様化している。「郷に入っては郷に従え」の一点張りでは立ちゆかない▼町では今後、住民同士が気持ちよく暮らすためのテキスト作りを始める。相互理解につながるのか。提言は「今までの自己価値観を押し付けない」とも記す。年度が改まり、新天地での生活を始めた人には参考になる。我を張るあまり周囲と波風を立てても得はない。譲り合いの心が望ましい。(新潟日報デジタルプラス・2023/04/02)

発端となった問題の「広報誌」は本年一月に出されたものです。直後に話題になったから、ぼくも知っていました。ここに出すのは、今となれば「旧聞」であるのは事実ですが、居住地変更の季節、転入・転出大童(おおわらわ)の時季でもあるので、ここに「旧聞」を引っ張り出し、じつはそれは「新聞」でもあるんですよと言ってみたくなった。これまでも、ぼくは何度か引っ越しをした。ほとんどは、いわば「都会地周辺」か、「都会の田舎圏」だったが、終の棲家となるかも知れぬ現在地には2014年三月に転入してきた。現在十年目が始まったところです。池田町のお歴々が「暮らしの七か条」を掲げて訓示を垂れたかったのは、ぼくのような後期高齢者ではなかったと思う。移住者でも、大いに地域を盛り上げてもらいたいという「青・壮年」だった。その内容について、ぼくは何も言わない。これを守らなければ、現住民から「村八分」を受けて当然というような印象を持ったのは事実だし、それでも「七か条」を受け入れて移住する人は歓迎されるのだろうから、ある種の「移住希望者の面接」「品定め」だったのでしょう。
ぼくが壮年であって、この町に越そうとして、池田町のような「広報誌」をみたなら、まず移住はしなかったと断言できます。どこに住むか、移住・移転の自由、それは受け入れる側にあるのではないのは明らかです。あなたは受け入れる、君は受け入れないと、まるで入学・入社試験のような「品定め」をされる理由はないからです。池田町がそれほどのことをしたのは、たしかに理由があったのでしょう。しかし、「受け入れの許諾」が先に住んでいる側(先住民)にあると考えていたなら、そんなところには住みたくないという気持ちは、ぼくの中からは消えないですね。
今から十年前、ぼくがこの地に越してきたのは、ちょっとした理由があった。まず都会というか街中は嫌だったので、仕事(勤め人)を辞めたのを機に静かなところ(人間の少ない環境)に住みたかった、残した仕事(数冊の本の執筆)を仕上げようとしていたので、書籍の置き場所を確保し、さらにネット環境が整っているところなどなど、それを条件に探した結果、ここに行き着いた次第。人間(人口)が少ないと言っても、先住者は半径一キロの範囲にかなり住んでおられた。しかし拙宅の周囲は、文字通り「向こう三件両隣」というくらいで五軒か六軒しかなかった。山の中というほどではなかったが、それなりに小高いし(標高百メートル)、雑木林や竹林に囲まれている。初めの三年ほどはぼく一人、その後にかみさんがやってきて、今に至っている。

池田町のようでもあり、それほどでもないような事態が、ぼくにも起こった。拙宅の西隣(三百メートルほど離れている、この間には一軒の人家もない)の住人が前町内会長でした。越してきたら、「町内会」には入るつもりだった。ゴミ出しや草刈りその他、最小限度の共同作業は当たり前と考えていたから。そのために、前会長さんに「入会・参加」の件は話しておいた。その後、現会長を同判されて拙宅に来られ、ぼくは参加申込書にサインした。少し気になったのは、町会費がかなり高額だったこと。以前の地域では月額二百円か三百円ほどだった。ところが、その何十倍もが求められていた。一番の問題は、町内にある白幡神社の「氏子」になるという条件だった。この氏子代が五千円以上だし、その神社の環境維持のために、年間で数日分の労働提供が求められた。それでも、町内の一員にしてもらうのだから、これくらいは仕方がないと思って、少し躊躇はしたが、申し込んだ。
数日後に、前会長から電話が入った。「新規会員になるのだから、入会のための『心づけ』が必要です。現会員への挨拶代わりに準備してほしい」と言ってきた。とんでもないことをと、その段階で入会を断ろうとしたが、もう引っ越ししてきた身、無下に断ると「角が立つ」と考えて(だったか)、「分かりました」と答えた。電話を切ろうとしたら「それなりの金額を、お願いします」と念押しされた(あるいは、この電話は、数日後にかかってきたのかもしれない。不愉快だったから、忘れてしまった)。彼の口からは「十万単位」の金額が告げられた。じつに不愉快になったが、三日ほど時間を置いて、ぼくは前会長に電話を入れた。「町内会」について、「ぼくの考えていたのとは大きく異なりますので、入会は見合わせます。お手数をかけました」と。それ以来、何事もなく、とぼくは勝手に思っているが、どう思われているか。こんなのは「池田町」の比ではない、些細な事だったと思うが、あまりいい気分はしなかった。年に数回の町内の草刈り(相当に広範囲に渡る)には参加していないが、時間が許す限り、自宅付近の除草をやっている。もちろん、神社の氏子にならなくてよかったと思っている。

「品定め」(どんな人間で、何をしているものか)は多分、今でもされている。ぼくの方は、誰がだれだか、少しも知らない。近所付き合いをしたいわけでもありません。でも、それが「都会風」と受け取られているのかどうか。ここはまったくの僻地ではないと思っています。最短のコンビニまでは3.5キロ、最寄りのJR駅までは約10キロ。スーパーへは同じくらいの距離です。イノシシやタヌキ、その他の野生動物が先住民として縄張りを張っています。気持ちよく、近所・町内の人々と暮らそうにも、それまでの経験と言うか、生活が違いすぎます。無理に合わせることもなかろうと、やはり勝手な振る舞いをしているのかも知れません。都会という「密林(ジャングル)」に隠れ住むことを願う人もいれば、ぼくのように「隣はなにをする人ぞ」という程度に、関心を持たれなくてもいい、距離のある関係の中で暮らしたいと思うことがしきりです。でも、「相身互い」で、必要に応じて「助けられたり助けたり」は、望むところという気も失わないで生きています。
深刻な問題は人口減です。多くの自治体の場合には「人口流出」で、移住者を増やすために、あの手この手を使うことになります。高齢者ではなく、子どもを育てる夫婦や若者が来てくれるために、血税を絞って使っているところもある。これは一地方や自治体の問題などではなく、国が手当をしなければならない課題です。「異次元の子育て政策」といいながら、「こども家庭庁」に顕在化している、古典的家制度にしか神経が回らないのでは展望もあったものではない。「夫婦と子ども二人」という「家庭像」こそ、止めようのない少子化現象の現況・元凶だと思うね。結婚して子ども二人を生んだら「奨学金返済免除」だってさ。馬鹿に付ける薬はないというのは、いつも正しいね。

「都会風は吹かさない」など“移住者への提言”に賛否 「温かく迎えた方が…」住民から困惑の声も 福井・池田町 「都会風を吹かさない」「品定めされることは自然」など福井県池田町の広報誌に掲載された“移住者への提言”に波紋が広がっています。住民からは「温かく迎えた方がいい」など困惑の声も。実際、池田町に移住してきた人はどう感じているのでしょうか。 ◇◇◇ 森林に囲まれた人口約2300人の町、福井県池田町。過疎化や少子高齢化が進む中、農業を中心とした町づくりなどを掲げて移住者を受け入れています。しかし、池田町が住民向けに発行している1月号の広報誌の内容で波紋が広がっています。(以下略)(日テレNEWS)(https://news.yahoo.co.jp/articles/95da0312a9e5faa92335c89f5384a90318765363)

自然豊かな福井県福井市美山地区の中手町集落には、移住者がコンスタントにやってくる。愛知県出身の竹内祥太さん(34)は2018年に移り住み、養蜂を営みながら妻と暮らす。きっかけは、大阪にいた頃に読んだ「福井人」というガイドブック。自給自足の生活を心がける県外出身者のグループがこの集落に開いたカフェ「手の花」の記事を読み、緑にあふれていて移住者が過ごしやすそうな雰囲気に引かれた。/ 移住後、竹内さんは手の花関係者から受けた「地域の清掃や寄り合いなどの行事は積極的に出た方がいい」とのアドバイスを実践。高齢世帯の屋根雪下ろしも手伝う。住民は移住者の対応に慣れており、竹内さんは「適度な距離感で付き合ってくれる」と話す。/ 町内会の役員の男性(65)は「かつては移住者との間で摩擦やすれ違いもあったが、今はそういうことはない」。竹内さん宅の近所の女性(93)は「空き家が増えるより、にぎやかな方がいいね」と笑顔を見せる。(以下略)(福井新聞・2023年3月1日 )(https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1734526)
_____________________________________