
[大弦小弦]西山太吉さんの胆力 メディア界を追われて30年近く。再び表舞台に立った西山太吉さんは、エリート記者のプライドや振る舞いを身にまとったままだった。ペンを折り、親族の会社で働いた日々をどう過ごしたか▼沖縄復帰前年の1971年、西山さんが突き止めたのは政府の裏切り。国民に隠れて米国が負担すべき費用の肩代わりを密約していた▼西山さんが逮捕、起訴された72年、問題視されたのは取材過程。密約暴露に慌てた権力は、西山さんが外務省の女性事務官と「ひそかに情を通じて」資料を入手したとわざわざ起訴状に記した▼「記者逮捕は知る権利の侵害」などという論調は雲散霧消した。優れたノンフィクション作品が独立した男女の関係を伝えたが、世の非難は西山さんに集中した。情報源を守れなかった西山さんは黙して語らなかった▼米公文書が西山さんの報道の正しさを証明したのは2000年代になってから。取材を受けるようになり、再びペンを執った西山さんは身をもって経験した権力の犯罪と恐ろしさを指弾した▼13年、特定秘密保護法の成立直前は、こう教えてくれた。「情報が取れなくなり、記者の気力、胆力がなくなる。自棄的になる。それが権力の一番の狙いだよ」。西山さんが旅立った今、権力はますます強くなっている。記者の気力は、胆力は、足りているか。(阿部岳)(沖縄タイムスプラス・2023/02/27)(ヘッダー写真〈普天間基地〉も・2022年8月28日 14:22)

<金口木舌>密約事件は終わっていない 毎日新聞記者だった西山太吉さんが沖縄を語る時、いつも「見せかけ」という言葉を使った。返還協定は「国民をあざむくための見せかけだ」というように▼沖縄返還に絡む密約を報じ、罪に問われた。「沖縄返還密約事件」である。それがスキャンダルとして扱われ、当時は「西山事件」などと呼ばれた。事件の歪曲(わいきょく)にメディアも手を貸した。敏腕記者は筆を折った▼2000年以降、密約を示す米公文書が明らかになり、西山さんは密約文書開示を求めて国を訴えた。闘いを多くの同志が支えた▼元記者の不遇に思いを寄せる人がここにもいた。05年秋、西山さんを招いた那覇市での集会。県祖国復帰協議会の事務局長だった仲宗根悟さんは声を震わせ「沖縄から力になれなかった」とわびた▼西山さんの訃報に接し、20年前の取材を思い出す。眼光は鋭く、身ぶり手ぶりを交え、まくし立てるように話した。今も政府は密約を認めない。そればかりか、基地負担軽減に名を借りた新たな「見せかけ」で県民を惑わせる。「返還密約事件」は終わっていない。(琉球新報・2023/02/27)

● 沖縄返還密約【おきなわへんかんみつやく】=日米両政府が,1971年の沖縄返還協定締結の際に,米軍が負担するはずだった土地の原状回復費などを日本側が肩代わりすることなどを取り決めたとされる密約。当時,毎日新聞記者だった西山太吉が,この交渉に関する外務省機密電文を省職員に持ち出させたとして国家公務員法違反で有罪判決を受けた。日本国政府は国会などで密約の存在を否定したが,2000年,この密約を裏付ける内容の米公文書が発見された。2005年,西山は,国家による情報隠蔽・操作を問題として,国家賠償請求を地裁に提訴したが,東京地裁は密約の存在にはふれず,賠償請求の除斥期間を過ぎており請求の権利がないと訴えを棄却。日本国政府はその後も一貫して密約の存在を否定し続けていた。2008年,情報公開法に基づき,作家・研究者・ジャーナリストらが,密約文書の開示を外務省・財務省に請求,両省は文書の不存在を理由に不開示を決定,作家らは提訴した。2009年,この訴訟に関連して証人として出廷した元外務省アメリカ局長吉野文六は,密約の存在を証言,また一方,同年政権交代を果たして発足した鳩山由紀夫内閣の岡田克也外務大臣は,沖縄返還時の協定を含む日米密約の存在の調査と情報開示を外務省に指示した。さらに,沖縄返還交渉当時の首相佐藤栄作の私邸から核密約に関わる覚書が発見されるなど,密約が存在したことは確実となった。2010年4月,密約訴訟について東京地裁は外務省の非開示処分を取り消し,文書開示と原告に対する損害賠償を国に命じた。外務省はこの判決を不服として控訴している。(マイペディア)

西山太吉さん死去 沖縄返還密約を報道 沖縄返還での日米密約を報道し、一九七二年の外務省機密漏えい事件で有罪が確定した元毎日新聞記者西山太吉(にしやま・たきち)さんが二十四日、心不全のため死去した。九十一歳。山口県出身。葬儀は近親者のみで行う。喪主は長男正人(まさと)さん。/ 毎日新聞政治部記者だった七二年、外務省の女性事務官に沖縄返還での日米密約に関する機密公電の漏えいを働きかけたとして、国家公務員法違反容疑で警視庁に逮捕され、起訴された。東京地裁は七四年、無罪判決を言い渡したが高裁で逆転有罪となり、七八年に最高裁で確定した。/ 二〇〇〇〜〇二年に密約を示す米公文書が相次いで見つかったのをきっかけに〇五年、違法な起訴や誤った判決で名誉を傷つけられたとして、国に謝罪と損害賠償を求めて提訴。〇八年に最高裁で西山さんの敗訴が確定した。/ 〇九年には原告の一人として、密約文書の非開示処分取り消しを求めて提訴。東京地裁は一〇年、密約の存在を認定して国に関連文書の全面開示を命じ、原告一人当たり十万円の賠償も認めた。東京高裁で逆転敗訴し、一四年に最高裁で確定した。 /外務省機密漏えい事件の一審判決後に毎日新聞を退社。北九州市で親族の青果会社で働いた。05年の提訴後は安全保障問題や報道の自由について講演などで積極的に発言。著書に「記者と国家 西山太吉の遺言」「沖縄密約 『情報犯罪』と日米同盟」など。作家の故山崎豊子さんの小説「運命の人」のモデルになった。(東京新聞TOKYO Web・2023年2月26日 07時19分)
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戦前も含めて、国家権力はどれだけ「嘘」をついてきたか。ぼくの感覚では「政治家は嘘つき」なのではなく、「嘘つきが政治家」だと信じているところがある。もちろん、誰も彼もが嘘つきだというのではなく、政治権力にありついた人間は往々にして「大嘘つき」だというのです。西山さんの生涯のある部分は、国家権力のつく嘘を暴(あば)いたという明の部分と、それを理由に人生を棒に振る他なかったような権力の仕打ちに敗れた暗の側面があるでしょう。政治家を引退した後に、大変な買収工作をして「ノーベル平和賞」を掠め取った S 元首相は、その政治歴の中で幾多の嘘を付き続けてきました。こと沖縄に関しては「西山事件」とされた「沖縄返還密約」問題であり、他は「沖縄への核持ち込み」密約であります。それを外務省の官僚をも騙してまで、アメリカの言いなりになったことは「売国の極北」ここに尽きるというほかないような、犯罪だったと思う。それが「ノーベル平和賞」でした。西山さんがもたらした波紋は、今もなお続いています。この問題を巡って幾つもの疑問がぼくには拭えないのです。国家という入れ物は、誰のものなのか、誰のために存在しているのかという、何処まで行っても尽きない疑問です。(それはまた別の機会にします)

銃弾に倒れた元総理は、口から出ると「嘘」という致命的な「性癖」を持っていた。話せば嘘ではなく、嘘しか話せないという代物だったと思う。こんな輩が国家権力の中枢に座り続けていたということ事態、国家という空虚な入れ物の、虚構性をつくづく感じざるをえないのです。人間は弱い存在だというのは、自分を偉く見せたい、大きく見せびらかしたいという態度や行為によって知られますが、政治家というもの、おしなべてそのような品性・資性を持っているがゆえに、大きな「虚栄」には、政治に関心を示す者にとって、ある種の憧(あこが)れがあるのではないか。だからこの「名代の嘘つき」は「最長不当(不倒)総理」を記録したのでしょう。大嘘つきであったがゆえの勲章だといえます。だからこそ、この社会の風紀や品性を著しく劣化させた報いとしての「国葬」だったと思う。
現在の総理はどうか。彼には誠意も真摯さも探したくともないと言っておく。自らの進退をかけて政治判断をすることがどういうものかを知らないで、政治家三代目だ。「唐様で書く、三代目」の現代版の典型だともいえます。彼ほど「傀儡(かいらい)」が身についた政治家も稀有だと思う。取り巻きは、あるいは「くみしやすし」と北叟(ほくそ)笑んでいるだろう。神輿に担ぎ上げられて「浮足立つ」だけではない。彼は、この国の総理大臣ではなく、米国の下僕でしかないと言わなければなるまい。見識もなく、見通しも持たないで、誰かが運転する車(神輿)に載せられて暴走するばかりです。口から出任せといいますが、彼の場合は、「出任せ」ではない、ことごとくが「食言」だと言い換えたほうがよろしい。「食言」とは「名](スル)《一度口から出した言葉を、また口に入れてしまう意》前に言ったことと違うことを言ったりしたりすること。約束を破ること」(デジタル大辞泉)です。いちいち例を上げない。須(すべか)らくが「食言」ですから。それは「飾言」に重なる。聞いていられず見ておれず、です。第一、支持率がいくらかとは言え、ある事自体が恥ずかしい限りと、ぼくは言いたくなるのです。とどのつまりは「政治とは、嘘で塗り固めた食言の羅列であり、結局は「金(税金)配り」だと、彼は心得ているのだ。

国家が嘘をつくのではない。あくまでも、その主語は人間です。権力の座にある人間は「国家そのもの」ではなく、一種の政治制度や機関の「運転手」であり、「車掌」です。その限りでは、人品骨柄はともかく、人間です、その人間が「国を騙り、嘘をつく」のです。このところの国家機関側の「情報秘匿」は目を覆うばかりであり、公開されたものが真っ黒の墨だらけとは、「情報公開」の名に値しないばかりか、「知る権利」を有する人間事態を蹂躙・罵倒していることになるのです。
この点に関しては、これまでにも繰り返し言ってきました。何度言っても足りないほどに重要なものです。ある事実を「曲げて話す」という情報操作もまた「知る権利」の侵害であり、人権を踏み躙(にじ)ることにいささかの「痛痒」も感じられない輩が政治家を名乗っているのは、ぼくたちの時代の恥辱であり、ぼく自身が辱めを受けているようなものです。ここ数年、西山さんは精力的にネットの番組に出られて発言を残された。その一つ一つを訊きながら、「国家の犯罪」という名の、権力に巣食う人間たちの「獰猛さ」に思いを馳せている。国家を「騙る」人間(政治家)の素性を暴いた彼を、断じて認められない有象無象がいるのもこの社会の実情です。以て瞑すべし、とは断じて言えない、この社会の惨状ですよ。

国家権力と(新聞)報道の問題は何時でも問われ続けています。その報道も、今日では「体制」派が圧倒的で、おいそれと国家権力の腐敗や虚飾を追求することができなくなっています。もちろん、半世紀前だって事情は変わらなかった。だから一西山記者が必要以上に拡大投影されたのです。西山さんが特別のことをしたと受け止められるほど、それほど報道はその姿・役割を、権力の前で消し去ってしまったのです。いうも恥ずかしいが、記者会見で、質問に見せかけて、自分(自社)を売るようなハレンチ行為が目に付きすぎる。「何々を教えてください」「そのことについて、ご所見をお伺いします」と言うのは、質問なんかではないですね。教えを乞う言われが何処にあるのでしょうか。権力を撃つ・打つ・討つという気概というか。気骨が失われてしまえば、後は権力に抱きかかえられることにしか興味がなくなるのです。西山氏が特別の記者だったのでしょうか。そうであるともそうでないとも言えそうで、そもそも、そういう迷いこそが「報道」の頽廃であるということではないでしょうか。
【地軸】国家の嘘 家のガス灯が暗くなった。ところが男は誤認だと言い張り、「自分の感覚を信じるな」と妻を心理的に追い詰める。そんな戯曲を語源とする「ガスライティング」は、自らの利益のために他人を著しく誤解させる行為を指す。米国の辞書出版社が昨年、検索が急増した「今年の言葉」に選んだ。▼フェイクニュースや陰謀論の氾濫が関心を高めたという。ウクライナを「非ナチス化」、市民虐殺は「デマ」―根拠のない理屈を国家が言い募る。そうして侵攻を正当化するのを世界が目撃するさなかである。▼「国家のうそ」は、しかし遠い話ではない。沖縄返還の際、政府は米軍用地の原状回復補償費を肩代わりする密約を交わしながら、米公文書や元外務省局長の法廷証言で動かぬ事実となるまで、否定を続けた。▼先日死去した元毎日新聞記者の西山太吉さんは返還前、記事でその存在を示唆した。だが、機密公電を渡すよう働きかけたとして逮捕。起訴状で女性事務官と「ひそかに情を通じて」入手したと記された。外交問題は男女関係にすり替わり、事件は隠蔽(いんぺい)から漏えいへ変質。西山さんは孤立して記者を辞めた。それでも最後まで追及した。▼個人に犠牲を強いてうそを通す。似た構図は、財務省職員が決裁文書改ざんを苦に自殺した森友学園問題でも疑われる。権力の宿痾(しゅくあ)なのか。▼西山さんには報道機関が連帯して追及しなかったとの思いもあった。私たちの重い宿題である。(愛媛新聞ON LINE・2023/02/27)
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