
【斜面】ドイツのもう一つの闘い サッカーW杯で日本に敗北したドイツはこの時、もう一つの闘いに挑んでいた。相手は国際サッカー連盟(FIFA)である。試合前の記念撮影で選手がみな口を手で覆ったポーズをした。自分たちの声を不当に封じるな、との抗議だ◆開催国カタールではインフラ整備に携わった外国人労働者の多くが劣悪な労働環境で死亡したと報じられた。同性愛行為も違法で、欧州などで批判が高まった。欧州7チームは大会で主将が反差別の腕章を着けようとしたが、FIFAが待ったをかけた◆政治的スローガンに当たる、との理由らしい。ドイツは「政治的な声明ではない。人権の尊重に交渉の余地などない。腕章の否定はわれわれの声の否定だ」と猛反発した。一方、アラブ側も欧州への反発を強めている。英メディアは「平行する二つの宇宙があるようだ」と伝えた◆W杯は1934年イタリア大会でムソリーニが政治宣伝に利用した。ナチスも続く五輪で倣った。スポーツと政治には苦い歴史がある。だが、選手が開催国の人権状況に異を唱えるのを「政治的」と禁じていいのか。フタをしてやり過ごす狙いが透ける◆2年前、テニスの大坂なおみ選手は人種差別に抗議するマスクを着けて全米オープンに出場した。差別や抑圧、貧困はスポーツの未来を妨げる。トップ選手らの敏感な反応は当然だ。世界の現実や課題が見えてくる国際大会で「黙って競技だけしろ」と言うのなら、選手の人権をも損なう。(信濃毎日新聞・2022/11/25)

(CNN) カタールのハリファ国際競技場で23日に行われたサッカーのワールドカップ(W杯)日本対ドイツ戦の試合前、写真撮影に臨んだドイツの選手が手で口を覆う一幕があった。多様性を訴える腕章の着用を認めなかった国際サッカー連盟(FIFA)にメッセージを送るためだった。/ ドイツのスタメン選手11人は全員、右手で口を覆うポーズを取り、数分後にはこの写真がSNSで広く出回った。/ 日本との試合が始まるなか、ドイツ代表チームはSNSでこのジェスチャーについて、「OneLove」と書かれた腕章を禁止したFIFAの決定に抗議する狙いがあると確認した。欧州では多くの国の主将がこの腕章の着用を希望していた。(中略)/ 腕章には様々な色のストライプで塗り分けされたハートが描かれ、あらゆる伝統や生い立ち、性別、性自認を表すデザインとなっている。大会前、イングランドやウェールズ、ベルギー、オランダ、スイス、ドイツ、デンマークの主将が着用を予定していたが、FIFAは21日、着用した選手にイエローカードを出す方針を明確にした。/ ドイツサッカー連盟連盟(DFB)はキックオフ直後に投稿した一連のツイートで、ドイツの重視する問題について声を上げるのをFIFAから封じられたため、抗議を行ったと示唆した。/ DFBは「我々は主将の腕章を通じ、多様性と相互尊重というドイツ代表チームの価値観について立場を表明することを望んでいた」と説明。「政治的な意見表明ではなかった。人権に交渉の余地はないからだ。これは当然のことだが、依然としてそうなっていない」「腕章の禁止は声を封じられることに等しい」とした。(以下略)(上の写真は:右手で口を覆うドイツ代表選手/Alexander Hassenstein/Getty Images)(https://www.cnn.co.jp/showbiz/35196527.html)

(⬅ 虹色のキャプテンマークを着用予定だったノイアー。しかし、彼らの願いは叶わなかった。(C)Getty Images)(同上)
スポーツは好きで、大抵のものは実際にやったことがあります。観るのも、ある時期までは大好きでした。今と違って、観戦するには、テレビか、競技場に行くしかない時代でした。京都在住時代には、数年に一度、プロ野球が西京極球場で行われた、それには何度か観に出かけたことがあります。その球場では高校野球の予選を戦ったり、隣の球技場ではラグビーの花園予選の試合に出ていました。(何れも出ると負け)
カタールのドーハでワールド・カップ(サッカー)が開かれています。日本がドイツに勝ったというニュースで持ちきりですが、ぼくは、それほど関心がない。これは五輪でもそうでしたが、今のスポーツは「商業主義」「金まみれ」が相場で、いわばスポーツを食い物にしているという、汚れた印象ばかりが強くなりすぎて、純粋に試合を観戦する気分になれない、それが正直なところです。選手も、中にはその商業主義に抵抗はなく、否応なく、歩く・走る・泳ぐ・滑る・投げる・飛ぶ「広告塔」になっており、競技会場はスポンサーの舞台裏のような、展示会のような、美しくない雰囲気が蔓延しているところで、けっして安閑として見ていられないのです。

今回のFIFAの姿勢には、同調できないものがありました。選手たちが「人権尊重」の態度を示すことを「政治的」と批判し、それを許さなかった。「スポーツに政治を持ち込むな」というのが大方の意見です。最も政治性を固守しているのが各種団体、その代表はIOCであり、FIFAなどでしょう。このような問題で思い出されるのはメキシコ五輪のときの出来事です(これはどこかで触れています)。アメリカの陸上選手(金・銅メダル剥奪、競技界から追放の処分を受けた)の示した抗議の姿勢が非難されたが、これ以降、長い時間がかかったが、ブラックパワー・サルート(拳を突き上げる、片膝をつく姿勢を取るなど、黒人差別に抗議)が容認されるきっかけとなった事件でした。(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_60f7d0a2e4b0158a5edb51dd)

スポーツと政治の関わりはけっして切り離せないもので、スポーツ選手は政治的中立を保ち、大人しく(黙って)競技に参加すればいいのだという、いわばスポーツ選手からの政治的態度(主張)、つまりは「人権」の剥奪が、これまで罷(まか)りとってきたのです。どんな人も、大なり小なり「政治的存在」であって、「静物」などではないのです。それを最も利用してきたのが各種競技団体の幹部連だったではないか。スポーツの政治利用でもっとも有名になったのが1936年のベルリン五輪でした。ヒトラーが最高に政治利用したものだった。その次の東京五輪(40年予定)は「日米戦争」開始のために開かれなかったが、政治的中立をいうなら、いまの「ウクライナ侵略」のさなかにも開かれているワールド・カップ同様に開くべきだった、場所を変えても開催すべきだった、というのはどうでしょう。
戦争や動乱の非人道性を一時忘れるために、五輪があるのではなく(五輪などの競技大会は「一服の清涼剤」などではないでしょう)、「平和の祭典」と謳っているのですから、戦争であれ、人種差別であれ、著しく個人や団体の権利を否定するものにこそ、スポーツ(にかかわる人)は立ち向かうべきではないのか。ぼくはいつしか、五輪を始めとする「世界規模」の競技大会に興味を失っていったのは、まずはスポーツを利用する人間たちが権力や金にまみれている(昨年の東京五輪はその典型的悪例)、あるいは政治弾圧を受けている側の「人権」を擁護しない、ご都合主義の「政治的中立」の使い分けにうんざりさせられてきたからです。

「イエローカードや退場…FIFAが競技での制裁を警告 ハート形のロゴとともに同性愛者などへの差別反対を表現した「ONE LOVE」と書かれたキャプテンマークは、カタールでの同性愛者への差別的な法律への抗議として、9月から各チームが試合で使っていた。/ W杯での腕章の着用を予定していたのは、イングランド、ウェールズ、ベルギー、オランダ、スイス、ドイツ、デンマークの各キャプテン。ロイター通信によると、FIFAはこれに対し、着用すればイエローカードや退場などの制裁があり得ると通達。7チームは連名で「選手に警告を受けるリスクを負わせることはできない」と着用を断念。声明を出し、FIFAの決定を非難した。/ ドイツサッカー協会のベルント・ノイエンドルフ会長はFIFAの制裁の脅しは「ワールドカップ史上、前例のない出来事」だと述べ、FIFAを批判したとAFP通信が伝えた。/ ベルギー代表は、「LOVE」の文字と虹色のデザインが入ったアウェー用ユニホーム着用についても、FIFAが認めなかったとして断念している。(ASAHI SHIMBUN・2022.11.22 GLOBE+:https://globe.asahi.com/article/14774648)

英陸上選手、「抗議することは基本的人権」 「五輪での抗議全面解禁求める「人種差別に抗議した人を処罰するって、いったいどうやってそうするのか、いったいどうやってそんなことを強制するのか」とアッシャー=スミス選手は言い、『誰かが、人種差別は間違っていると言ったとして、それを理由にその人のメダルを取り上げるのか?』と疑問をあらわにした。/『抗議すること、意思表示することは、基本的人権だと私は思っている』」「アッシャー=スミス選手は、スミス選手とカーロス選手が表彰台で『ブラック・パワー・サルート』と呼ばれるポーズをした瞬間は、オリンピックの歴史でも特に象徴的な瞬間だったと話す。/「ああいう瞬間があるからオリンピックは記憶に残る。ああいう瞬間をオリンピックで見ると、誇らしい気持ちになる人は大勢いる』」(BBC・2021/07/24:https://www.bbc.com/japanese/57951864)
これはおかしい、あれは正しくないと、問題の状況に異議を唱えること、それは「発言の自由」というもので、まさに「人権そのもの」です。それを否定したり、抑圧するところで闘われる・競われる「スポーツ」とは何でしょう、そんな根本的な疑問をぼくは持ち続けている。
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