
適材適所 (right person in right place)~ もうずいぶん昔になりましたが、まだ法隆寺の宮大工・西岡常一さん(1908~1995)がご存命の頃、いたく感動した話が、いくつもありました。中でももっとも教えられたのが「適材適所」という言葉の極意というか奥義というものでした。西岡さんは法隆寺専属(お抱え)の棟梁で、祖父から数えて三代目だった。法隆寺の修復や薬師寺東塔の再建に大きな役割を果たされた。木造建築のもっとも肝心なところは、どこにどんな種類の木材を使うか、梁や柱、天井板、壁・床材などなど、どんな土地(山麓か平野か、気候はどうか)の、どんな場所(日向か日陰か)に育った木か、それを間違えないように配慮するのは、言うまでもない。今では安直に使われるようになった「適材適所」がそれだ。「人材」などという、嫌味な言葉がありますが、「木材」からの派生語だったでしょう。人間も木材(材木)並みになったということだし、使うより使われる人間が重宝される時代になったことの現れです。そこで問わ(れ)なければならないのは、「棟梁」(上に立つもの)の技術と見識です。(いい点数を取ったり、試験に合格して、それで家が立つなら話は簡単だ。そんな家に誰が住むものか、そうも西岡さんは言っていた)(木造の建物、その生命は「木組み」だと、その美しさも、寿命も、「木組み」の妙を得て初めて達成されるのでしょう)

宮大工棟梁の一番の仕事は材木選び、早くから「木材を買うなら、山を買え」と言われたほどでした。木の種類選びから始まり、建物を建てる際に求められるあらゆる技量が棟梁になければ、家は建つだろうが、雨漏りがしたり、傾いたり。まもなく壊れるのが落ちである。内閣という「大家」建造の差配をする棟梁、それが「総理」だが、肝心の棟梁がクズ(グズ)そのものなら、用いられる大臣はクズ(グズ)以下が相場。「適所」の内容を把握できなければ、「適材」を配しようがない。ぜんたいをみとおして、どのようなたてものになるか、それを予め描けなければ寺などは建つはずがないのです。それは、国造りに関しても言えることでしょう。大きな事は言いません。この内閣では何が求められているか。その仕事の内容(適所)にふさわしい人を配置する(適材)、あんなことを委細構わず、当選回数による順送り大臣、派閥の親分の指令を黙認するだけの「指定席大臣」を任命するならのが「棟梁」の仕事だというなら、それは程度のきわめて下劣な、「下請け」でしかない。「塔組は 木の 癖組み 人の 心組み」これが西岡さんのバックボーンとなっていました。
「適所に適材を」が元来の意味だった。畳の下に使われる「杉板」を床の間に使う、檜を押入れの壁材にするような、無思慮の出鱈目が目に付きすぎる。己の息子を秘書官に採用し、選任理由を質問され、「総合的に判断し、適材適所で」と答えた。万事休す。「親子馬鹿」というほかない。総理への執念だけで生きてきたような安穏(極楽とんぼ)な「人材」に、それらしい仕事がなにもできないのは、初めから「不適材不適所」だったから。この「日本(大和)」という木造建物は、シロアリに喰われ、壁が剥がれ、床が抜け落ち、至るところにガタが来て、手の施しようがない。瓦解が相当に進み、倒壊一歩手前か。公私の弁えのない能天気が総理や大臣の椅子に(臭気を撒き散らす)色気を、それこそ脇目もふらずに振りまくという「政治と政治家」。人民を襲う、この不幸は、いつどのようにして止むのだろうか。

【日報抄】「ちょっと何言ってるか分からない」。相方のボケに突っ込む、お笑い芸人のせりふを口にしたくなった。突っ込む相手は総務相を更迭された寺田稔氏である▼「政治とカネ」の問題が相次ぎ、説明責任を果たすことが求められた。政治資金の所管大臣でありながら、自身の政治資金に関する釈明に連日追われる姿は異様だった。政治資金に対する国民の信頼は、すっかり揺らいだ。にもかかわらず、自身の説明ぶりについて「地元の方々からは『説明に感心した』という声しか聞いていない」と悪びれずに語った▼これは漫才でいうボケだったのか。ボケでなく本当にそんな声しか聞いていないとしたら、世間の実情を正しく把握できていなかったことになる。閣僚、政治家としての資質に疑問を呈されてもやむを得ない▼7世紀、唐の第2代皇帝の太宗(たいそう)は重臣の魏徴(ぎちょう)に名君と暗君の違いを尋ねた。魏徴の答えは明解だった。「君の明らかなる所以(ゆえん)の者は兼聴(けんちょう)すればなり。其(そ)の暗き所以の者は偏信(へんしん)すればなり」▼つまり名君は多くの人から多種多様な判断材料を得て、適切に判断を下す。これに対し、暗君は特定の人からの耳障りのよい意見ばかりをうのみにしてしまう。リーダー論として、あまりにも有名なこの故事を、本人もご存じないはずはあるまい▼先月来、岸田内閣の閣僚が交代するのは3人目である。前法相の更迭の際に小欄に書いた言葉を再び記したい。この内閣の「適材適所」とは何なのか。「辞任ドミノ」は現実となった。(新潟日報・2022/11/21)

辞任ドミノが止まらない 寺田総務相更迭 苦渋の身内切り 政権に打撃 岸田文雄首相が寺田稔総務相の更迭を余儀なくされた。自民党岸田派(宏池会)所属、広島選出のいわば「身内」。だが「政治とカネ」問題が相次ぎ、かばい切れなかった。一カ月足らずの間に山際大志郎前経済再生担当相、葉梨康弘前法相に続く三人目の「閣僚辞任ドミノ」。苦渋の判断を迫られた首相の政権運営は厳しさを増す。(以下略)(中日新聞・2022/11/21)
「政治とカネ」の問題が次々と発覚した寺田稔総務相が二十日に更迭され、岸田内閣はわずか一カ月で閣僚三人が交代する異常事態となった。山際大志郎前経済再生担当相、葉梨康弘前法相に続く不祥事で、岸田政権に大きなダメージになるのは避けられそうにない。中部地方の自民党の各県連幹部は任命権者の岸田文雄首相に説明責任を求め、有権者は「期待を裏切られた」と強く批判した。(以下略)(同上)
これは他国の出来事ではない。連日連夜、このような「恥の上塗り」のような場面が延々と続く、これが永田町の政治劇なんですね。いつだって、政治に満足することはないのが、ぼくには当たり前ですが、この二十年ほど、金をばらまく、(公共事業という名の、財政投融資という名の抜け道を使って)税金をくすねとる、それが政治であり、行政であると固く信じ、まるで人民(国民)の苦悩を見ない政治家や官僚たちが、この島社会を乗っ取ったというほかありません。国会審議を無視し、国民を人質にして、おのれの名誉や利権という「けちな褒章」を恣(ほしいまま)にしているのが政界の現実です。こんな国に誰がしたとは言うまい。国民の「教養」(背丈・寸法)見合った「政治」「行政」しか望めないのですから、結局は、選んだ側が責任を問われる、問われているのです。選挙する側とされる側の「癒着」「馴れ合い」「相身互い身」「持ちつ持たれつ」こそが、この社会の状況をここまで悪化させた一番の原因であることを認めるところから始めるしかなさそうです。投票した側の「選んだ責任」が問われないのは腑に落ちないね。問題を起こした議員を選んだ側には、すくなくとも「民主主義を貶めた」という罪がありますからね。(「見掛け倒し」「虚仮威し」「看板倒れ」などという「空疎」のさまを知らないんですか、みなさん)

この手の不見識な、非常識な人間(政治家)を見ていて痛感するのは、人生は「勝ち負け勝負」。地位や名誉、あるいは金がなければ人生じゃないというほどの偏見に毒されているという、言葉を失うばかりの頽廃です。嘘をつくのが政治家の「必要条件」だと深く錯覚しているのです(ひょっとすると、本気でそう信じているのかも)。だからまともに話せば話すほど、嘘が嘘を呼び、相手を愚弄する(尊重しない)という雰囲気が止めどもなく漂ってきます。ぼくは政治や政治家に多くを期待(願望)したことはありません。それだけで、十分に不幸だという気もしますが、いつも言うように、政治家本人が、無条件に悪いと言いきれない悲しさがあります。その理由は、他でもありません。この社会の「学校教育」の肝をつぶすほどの「貧困」「偏見」「差別」です。序列、成績、偏差値などという安直な言葉に見られる、人間の質を問うのではなく、競争で勝つことが「正義」であり「善」であるという、救いがたい「迷信」「迷妄」に、教育関係者の多くが取り憑かれている、まるで狂信的な「学校信仰」であり「教育信仰」です。素朴に、生きることを考える人には絶えて見られない、「不遜と自恃」に溢れかえるような、そんな人間を生産するという蛮行に、まず学校が手を貸すことを止めなければ。(その責任の一端を担っていたという自覚の意識があるからこその、この「世迷言(よまよいごと)」です)

「任命権者の責任を重く受け止めて」と、じつに軽薄にも繰り返す「任命権者」の惨めさを、国民の一人として、恥ずかしい気持ちを抱きながら、ぼくは感じるが、御本人は「惨めさ」などはいささかも感じていないのだろう。総務大臣の次の辞職(解職)候補大臣が、まだ後に何名も控えている。また「任命権者としての責任を重く受け止め」と、冗談にもならない冗談を垂れ流す「能天気」の余命は、疾くと尽きていますよ。責任を取ることを知る人は「重く受け止め」などと寝言を言わない。段取りを付けて、即刻辞任・辞職するね。
(古い言葉で「男子の本懐」という表現がありました。いまは男・女を超えて「人間の本懐」を真面目に受け止めることが大事ですね、キッシー君よ)(富士山に登ることだけが生き甲斐、そんな気分が岸田という人間から立ち上っています。登ったら、降りるしか先はない。人民を途方に暮れさせないでほしい)
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