
(ウクライナのボロディアンカに登場したバンクシーの絵。レオタードのようなものを着て、髪をひとつにまとめたバレエダンサーが逆立ちをしている(2022年11月11日撮影)Ed Ram via Getty Images)バンクシーの新作が戦禍のウクライナに登場。「柔道家を投げる子どもの絵」も本人の作品か【画像集】 イギリスのメディアはこの絵について「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に似た男性が、少年との柔道の試合で、ひっくり返されている様子が描かれている」と伝えている。
イギリスを拠点に活動する覆面アーティスト、バンクシーの作品が戦禍のウクライナに現れた。絵が描かれたのは、首都キーウ近郊のボロディアンカにある、ロシアによる軍事侵攻によって破壊された建物の壁。バンクシーは11月12日、「ウクライナのボロディアンカ」というコメントを添え、公式インスタグラムに写真を投稿。レオタードのようなものを着て、髪をひとつにまとめたバレエダンサーが逆立ちをしている絵が描かれている。IndependentやThe Gurdianなどの複数の海外メディアによると、バンクシーがウクライナで活動をしているとの噂が広がったのは、ボロディアンカの崩壊した建物の壁に、子どもが柔道着を着た男性を床に投げ飛ばしている絵が見つかったからだという。(ハフポスト日本版編集部:2022年11月12日 9時59分 JST|更新 2022年11月12日 JST)

● バンクシー(Banksy, 生年月日未公表)= 英ロンドンを中心に活動する覆面アーティスト。世界各地の街に現れて建物の壁などに社会風刺的なグラフィティアートを描くなど、ゲリラ的なアート活動を行っている。2005年に自身の作品を世界各国の有名美術館に無断で展示したことで、一躍、名を知られるようになった。10年には自ら監督を務めたドキュメンタリー映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」が第83回アカデミー賞ドキュメンタリー長編部門にノミネートされ、15年にはディズニーランドを風刺した期間限定のテーマパーク「ディズマランド」を英国でプロデュースするなど、多彩な才能を発揮している。14年には、米ニューヨークでのバンクシーのゲリラ展示を追ったドキュメンタリー映画「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」(監督クリス・モーカーベル)が公開され、注目を集めた(日本公開は16年)。[(知恵蔵mini)(https://www.instagram.com/banksy/)

謎の街頭画家とか、ゲリラ芸術家などと、さまざまな憶測も交えた評判が入り混じっているバンクシー。知る人ぞ知る、というのですが、知らない人は知らないし。彼がどういう経歴を持っているかなどを含めて、「公然の謎」といった風情のままに、まるで「覆面画家」のように、世界の至る所に「神出鬼没」「八面六臂」の活動ぶりを示しています。ある時期にウクライナに現れたという噂は聞いていました。今回の「逆立ちしたバレエダンサー」の「壁画」を描いているところを目撃した人がいて、バンクシーは一人ではなく五人だったと証言しているという記事も見ました(朝日新聞)。謎が謎を呼ぶというのはいいですね。この島社会の「鼠(ねずみ)小僧」のようで、取り澄ました「芸術」を否定し、額縁は不要。どこにでも絵は描けるという「絵の命」を拡張し拡大した活動家でもあります。なにはともあれ、弱い者いじめを生業(なりわい)にする「暴力」を振り回す権力を否定する、彼(彼女)たちの活動に、ぼくは大きな関心を持ってきた。

今回のバレエダンサーの「壁画」の動機というか、表現はなにを示しているのか、妄想をめぐらしてはいますが、ご当人にしかわからないことでしょう。「逆立ち」しているという構図が、いかにも、ロシアの破壊のグロテスクさを暗示(いや明示かも)しているようで、しかも、その構図からは、いかにも「地球(ウクライナの土地と人民)」を支えているようにも見える、堂々たるダンサーだと、ぼくには思われました。もう一枚の「少年が大人を投擲している」構図は、バンクシーのものとは断定されていませんが、いかにもありそうな場面で、「本物)以外に、たくさんの「バンクシー(フェイク)」が至る所にいるという、一つの証明かもしれないという意味では、ぼくには希望が見えてくる壁画でした。二枚とも、空爆によって破壊された「壁面」に描かれているというところに、当たり前の「反暴力」「反権力」の姿勢が見えてきます。

江戸時代に「SHARAKU」という浮世絵師がいました。その正体はだれか、いまだに謎解きがつづけられています。しかし、その姿は杳(よう)として知れないままです。「活動期間」は、わずか十ヵ月ほどだったと言われます。生身の「写楽」と交際していた人はたくさんいたのでしょうから、彼(彼女)の正体が割れないというのは、いろいろな協力者がいたということ。そこへ行くと、バンクシーはもっと知られています。仲間もいます。しかし、本人の正体を明かさないという「仁義」は守られているのでしょう。ある美術館で、他の展示作品に紛れて、バンクシーの作品が飾られたことがあった。(一人ではなかなかできない早業でした)不思議なことに、その「バンクシー」作に誰も気づかず、何ヶ月もそのままだったという事件があった。こういう「世間」においてこそ、バンクシーの存在理由があるのでしょうか。正体が明かされないほうが、かえって社会の貧しさを忘れさせ、荒れ狂う暴力性を、逆に風刺する(風となって刺し通す)(satire)、「無化(無に帰す)」するという、その空気感が時代や社会には必要なのだと、ぼくは感じています。それにしても「逆立ちダンサー(handstand dancer)」の膂力(りょりょく)は凄いですね。

(追記 このところ欧州各地で有名な美術館の「名画」を狙った、環境擁護派の「過激抗議活動」が報道されています。この種の活動が何らかの意味で、環境問題に資するかどうか、ぼくには疑問が大きい。その逆に、バンクシーの「壁画」行動は、それらとははっきりと異なったある種の抵抗・抗議行動だとも言えそうです)(右の写真は、©️YouTube – UK climate change protesters throw soup at van Gogh’s ‘Sunflowers’)( https://www.newsweekjapan.jp/worldvoice/matsuo_a/2022/11/las-majas.php)
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