物値上げ人も音上げの神無月(無骨)

 <卓上四季>働けど物価高 刈り取った稲わらを撚(よ)って縄にする「縄ない」は、農家の収入源だった。広島県の実家を継いだ詩人の木下夕爾(ゆうじ)は、学生時代を過ごした東京に行きたくなり、旅費稼ぎに縄ないを始めた▼ところが、お金がまとまりかけると汽車賃が上がる。戦後すぐのインフレ期だった。「東京行」という詩で「縄ない機械を踏む速度ではとても物価に追いつけない/ないあげた縄の長さは北海道にも達するだろう」と恨んだ▼値上げといえば春だと思っていたが、そうとも限らなくなった。9月から食品や家電などの価格上昇が相次ぐ。道内の最低賃金をめぐる協議でも、物価高に賃上げが追いつかない状況が考慮された▼木下を苦しめたインフレを止めたのは、財政と金融の引き締めを図るドッジラインだった。1970年代の「狂乱物価」の際には当時の福田赳夫蔵相が、田中角栄首相の日本列島改造論で膨らんだ公共投資に大なたを振るう「物価安定世直し予算」を組んだ▼だが、いまの政府の予算は来年度概算要求で110兆円超えと膨らむ一方。物価の番人たる日銀は大規模金融緩和に固執する。岸田文雄首相は国民生活よりも政権の安定を優先したいのだろうか▼米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン元議長は、物価の安定を「企業や家計が物価動向をほとんど気にせずに行動できる状態」と定義したという。目指すべき所はそこである。(北海道新聞・2022/09/05)

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 夭逝(ようせい)した詩人・俳人の木下夕爾さん。今ではすっかり忘れられた人かもしれませんし、存命中も決して派手な振る舞いはなく、郷里福山の薬屋さんの店主でもありました。同郷の先輩だった井伏鱒二さんを敬愛していたし、その影響もあってか、新宿のある大学付属の高等学校に入るも、親父さんの急逝で帰郷。爾来、地味ながらも詩作や俳句作りに勤(いそ)しまれた方。ぼくの好みにピッタリの一句を。

しその葉に秋風にほひそめにけり(木下夕爾)

 木下夕爾さんの五十歳の生涯は、当時にあっても、若死にだったと思う。彼の本領は詩人にあったが、ぼくは木下さんの俳句により強く興味を持ちました。なんでもない、当たり前の風景をさり気なく詠む、その姿勢や佇まいに、彼の人柄が忍ばれるという気もします。久保田万太郎氏に師事した経歴がわかるように思う。詩人にして俳人に「値上げ(インフレーション)」は、あまり似合いませんが、コラム氏の書かれた文章にも、夕爾さんの人柄が出ているか。「縄綯(な)い」は縄を作ることで、多くの農家の夜なべ仕事でした。ぼくも石川県の田舎にいあた頃に、少しはできるようになっていました。また草鞋(わらじ)や草履(ぞうり)づくりも賃仕事になっていたのでした。

 よほどのことがなければ、誰にとっても有り余るお金があるわけではないのですから、とりわけ農家にとっては、通常はお金は扱われなかったとされていますから(物々交換が主)、店で物を買うときには、ずいぶんと困ったことだったと思う。昭和初期の不況期でもあり、夕爾さんの東京行きは困難を極めたことでしょう。それもなんとか工面して東京へ出た。しかし、父親の願いもあり、帰郷を余儀なくされたのでした。 

 昔も今も、毎日のたつき(方便・活計=生活の手段)が立ち行かなくなるような「物価値上げ」の襲来は、慎ましく暮らしている衆庶にいいようのない苦しみを与えるでしょう。

●木下夕爾 きのした-ゆうじ(1914-1965)=昭和時代の詩人,俳人。大正3年10月27日生まれ。広島県福山市で家業の薬局をつぐ。昭和15年詩集「田舎の食卓」で文芸汎論(はんろん)詩集賞。短詩型の叙情詩にすぐれ,詩誌「木靴」を主宰した。久保田万太郎の句誌「春灯」同人。昭和40年8月4日死去。50歳。名古屋薬専卒。本名は優二。詩集に「生れた家」,句集に「遠雷」など。【格言など】家々や菜の花いろの灯をともし(「遠雷」)(デジ竜番日本人名大辞典+Plus)

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 結婚した年の秋(1973年3月に結婚した)、いわゆる「狂乱物価」という大津波に直面しました。今から思っても、ぼくたちは「狂乱物価」の荒波寄せくる海岸の遥か後方にいたようでした。海岸には近寄らなかった。トイレットペーパーがなければどうするという心配もせず、いずれ時期が来れば収まるさ、と高を括(くく)っていたというか、買い占め・買い溜めに走る愚かさを自らに禁じていたのではなかったか。まるで笑い話ですが、買い溜めたトイレットペーパー、その他の品物の重みで民家の二階の床が抜けたという逸話もできた時代でした。諸物価上昇、いや高騰する時代、その興奮を余所目に、ぼくたちは「霞を食っていた」わけではありません。雨や嵐に、いちいち大騒ぎしても始まらんでしょうという「いい加減な態度」を貫いたということだったと思う。一時期に、ある商品が20%も値上がりしたが、それがなければ死ぬんですかという、そんな無手勝流の姿勢を変えなかっただけ。どんなに買い溜めしても、使えばなくなる、当たり前です。少々の節約にはなっても、元に戻るのは時間の問題。そんな生活感覚で生きていました。若気の至りというものだったか。(右は山梨日日新聞・1973/11/21)

 五十年前とは様相は異なる「物価値上げ」の令和に四年ですけれど、その現象や現実に対する消費者の姿勢は、今も昔も変わりません。どんなに値上げをされても、買うしかないし、だから、そのつど「音を上げる」ということです。単純ではないのが経済の動向。世界が近く・小さくなりすぎた結果、一国で取れる手段には限界があります。それをいいことに政治は不作為を決め込んでもいる。そこに明確な道筋をつけるのが「政府・政治の役目」だといいたのですが、言っても無理だし、言うだけ無駄だと諦めてはいけないんでしょうね。自分の息子を「適材適所」で総理秘書官につけるという愚劣を平気でする現ソーリに何ができるのかという、諦念がどうしても否定できないんだな。

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 たしかに、値上げは台所を直撃する。ならば、台所をなくせばいいじゃないか、というのは冗談ですが、でも、そんな異常事態は何年も続かないだろうし、縦(よし)しんば、そうだとしても、続いている間に、少しは「生活の知恵」も出てくるだろう、そんな「軟弱な生活感」を持っていれば、それこそなんとかなると、今でも思っています。(ここに持ち出すのは気が引けますが、現在、ロシアの無謀な侵略を受けて町を破壊され、生活も破壊され、人生も毀損されていて、なおそこで「日常を営む」ウクライナ(現地)の人の様子を見るにつけ、なんとかなる、なんとしても生きていけるという気がしてくるのです。「戦時下」の民衆は、そんな諦念と覚悟の入り混じった思いで暮らしていたのではなかったか)

 (本邦における、コロナ禍の「マスク」不足時の情景を記憶されているでしょう。マスクがなければ、生きていけないと考える理由は少しもなかった。しかし、多くの人は「煽られ、煽られ」異常な高値で購入を迫られたのでした。そしてやがて、マスクの余剰が発生して今日に至っています。愚かだったのは誰でしたか。無用なマスクの発注で七百億円以上の税が投入されたともいう。コロナ禍に関わって政府が投入した税の総額は、この段階で七十七兆円という。それも増税で回収すると言われている、そこまで悪辣悪質な「苛斂誅求」に走る劣悪政治ですな)

● 狂乱物価(きょうらんぶっか)=急騰した物価の状態を指す。第1次石油危機を契機として,それまで落ち着いていた物価は,1973年以降2年ないし3年にわたって2ケタの上昇率を示すに至った。これをもたらした国内要因としては,第1に国際収支の黒字を背景に通貨供給量が増大し過剰流動性となったこと,第2に国際収支の黒字縮小を図るため,積極的な財政政策が展開されたことに加え,日本列島改造に端を発した株価,地価,卸売物価の上昇,第3に需給ギャップの縮小から一部の商品に不足現象が見られ,買い占め・売り惜しみなどの投機的行動を誘発したこと,さらに第4次中東戦争勃発による原油価格の高騰などがあり,これらが複雑に絡み合った結果といえる。(ブリタニカ国際大百科事典)

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 身に沁みて物みな値上げの春夏秋冬、こんな戯れ句を放り投げたくなるこの島の現実です。一人で心配しても始まりませんが、まもなく、この島社会は「債務超過」に陥ると(嫌なことをいうようですけれども)確信しています。世界情勢のしからしむる処といえば、「そうですね」と思わず納得させられかかるのですが、じつはこの島の現実は、あからさまに政府の、大間違いの「金融財政」政策(ともいえない)によるところが大です。「際限なき金融緩和」政策は、手の打ちようのないところに来ています。(この、忌まわしい緩和政策の地雷源は「アベノミクス」でした)驚嘆するばかりの「国債」発行額。その大半を日銀が買い入れている。日銀は、どこの国や社会にも見られないような株主、日本企業の多くの筆頭株主でもあるのです。もうすでに「日銀破産(破綻)」の状態にあるんじゃないですか。(この問題も書き出すとキリがないので、ぼくには面倒。ここで止めておきます。来年(以降)は「世界同時不況」という恐ろしい事態が予測されている)

インフレーション  (いんふれーしょん)= 世の中のモノやサービスの価格(物価)が全体的に継続して上昇すること。英語表記「Inflation」の日本語読みで、一般的には「インフレ」と略されて呼ばれることのほうが多いです。一般的には、好況でモノやサービスに対する需要が増加し、供給を上回ることで発生し、企業利益の上昇から賃金が増加し、消費が進むので、緩やかなインフレは望ましいといえます。一方で、同じ金額で買えるものが少なくなるので、お金の価値は下がることになります。短期間で物価が急騰するような「ハイパーインフレ」は物価の上昇に賃金の増加が追いつかず、経済が破綻します。インフレの水準を適正に管理することは中央銀行金融政策を担ううえでの最大の目的です。(大和証券「金融・証券用語解説」)

 日本の経済の現状がきわめて危険な水域にあることを、多くの内外の経済関係者が指摘しています。しかし、「聞く力」を目玉(売り)にしている現総理は、聞く力がないことを白状しているようなもので、問題の所在は聞いているが、「聞くだけ(野暮)総理」でしかないのです。この男も政治家が稼業の、二代目か三代目だったか。恐らく総理の椅子に、どんなことがあっても、どんなことをしても「座りたかった」だけの御仁でした。以下に、経済評論家の加谷(かや)さんが指摘するように、日本経済の先行きは「壊れた計器でのフライトを余儀なくされた飛行機のようなものだ」とするなら、パイロットは不在に等しいことになります。あるいは全自動運転の自動車(テスラ)のようなものか。日銀総裁は目も耳も不自由だし、財務官僚は金融財政に興味がなさそうだし。円安が加速して(外貨準備高の少なさを、投資家に見透かされていますから)、さあ大変と、見せかけの円買いを実施したところ「焼け石に水」で、やがて、その水までが熱湯になり、その後は蒸気になって、この島社会は干からびるのがお決まりです。

 (ここまで来て、この先を書く気力が失せてしまいました。政治や政治家は存在するだけで十分なのに、余計なことをするから、困難が次々に湧いて出るのでしょう。政治家の存在は認めても、彼や彼女が行動(政治)をすることは禁止したいね)

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 トリプル安の英経済より危険…「危機的状況」すら反映できない日本市場のマヒ状態 (加谷珪一

 日本においては、国債市場で2日連続で取引が不成立になるなど、市場が持つ価格形成機能が失われつつある。最大の原因は、日銀が一定以上に金利が上がらないよう無制限に国債を買い取る「指し値オペ」を実施していることであり、この状態では本当の金利が何%なのか誰にも分からない。/ 株式についても、上場企業の多くが日銀や公的年金が筆頭株主という異常事態が続いており、これらは全て異次元緩和の副作用である。/ 日本では3大市場のうち2つが機能不全となっており、国民は自国経済がどのような状態にあるのか判断できない。例えるなら、壊れた計器でのフライトを余儀なくされた飛行機のようなものだ。(ニューズウイーク日本版:2022/10/05)(https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2022/10/post-204_2.php

 (右上図:(出所・総務省統計局「日本の長期統計系列」および「平成29年小売物価統計調査(動向編)」より野村證券作成)

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 「東京物価上昇率、消費税除き約30年半ぶり 9月の東京都区部消費者物価指数の上昇率は約8年ぶりの大きさで、消費増税の影響を除けば1992年4月(2・9%)以来、約30年半ぶりの大きさだった」(秋田魁新報・2022年10月4日)

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