
高校野球もプロ野球もほとんど、いやまったく見なくまりました。中・高校時代には野球をしていたのですから、野球に関心がないわけではありません。でも、長島や王、野村や中西という、半世紀前の野球選手のような「輝き」「野性味」などが見られなくなったという思いが強くなったのが、野球から遠ざかった理由でしょう。あるいは「個性的」な選手の見本市のような場所だったと思う。高校野球については、新聞社が自社の宣伝に使っている、その不純な動機が野球を食い物にしているという思いが年々強くなったからでした。これはあくまでもぼく自身の感想でしかない。
それはともかく、「灯台下暗し」で、こんなすごい選手が、しかもまだ二十二歳、ヤクルトにいたのだということが驚きでした。想像を絶する精進の上に「三冠王」の記録が輝いたともいえます。王さんが55号を記録した年齢は二十四歳だったと言う。ずいぶんと若かったんですね。(余談です。ぼくがもっとも好きな野球選手は、落合博文さん。次いで野村克也さん。以下は多数です。お二人の人生に対する真摯な姿勢に感銘を受けてきました)
ぼくの直観では、どんなに素晴らしい「前人未到」の記録でも、きっと、あるいは必ず破られるという思いがあり、実際、さまざまな分野における「新記録」は、達成に要する時間の長短はあるにせよ、いつかはそれを破るような「新記録」に塗り替えられる。村上選手の存在は、今夏になって初めて知りました。彼が熊本出身だということも。熊本出身の野球選手と言えば「野球の神様」と称された川上哲治さん、その川上さんにつながる「熊本出身といえば、村上」、ということで「お国自慢」が大きな喜びを持って顔を出す。村上選手の「偉業」に熊日新聞は「号外」を持って報いたのです。見出しが踊っています。「村上56号 王超え」「58年ぶり更新 日本選手最多」と。郷土の誇り、県民栄誉賞だと、いいたそうな。

56号本塁打記録に「水をさす」気は少しもありません。この記念すべき記録達成に、ほとんどの新聞等の報道は「日本選手最多」という形容語を付けていました。「日本選手」「日本人選手」というのはどういうことでしょうか。ある時期まで王選手は「日本人選手」ではなかった。そのために「国民体育大会」に出られなかった。その「国民」は日本国籍者に限るという、当時で言うなら。笑うべき「純血主義」が通用していたのでしょう。今から六十年以上も前のことでした。野球の世界(にかぎらない)は、人種や民族にかかわらず、野球というスポーツに打ち込む仲間たちで作り出す、ある種の水平というか平等のルールに支配された競技ですから、殊さらに「日本選手最多」などという必然性はないものです。(こういうところが「島国根性」と言われる所以なんでしょうか)
しかし、なかなかそうじゃないんですね。第一、今回の記録達成が熊本出身選手だったから、地元新聞社から「号外」が出たのであって、これが宮崎や北海道出身選手だったらどうだったか。ぼくは運動(スポーツ)は好きですが、そこに「国(都道府県市町村)」や「民族」や、その他の「属性」がつくのは、一面では理解できそうですが、あまり意味のあることではないと思う。「我が国」「我が県」などというのは、なんででしょうね。「贔屓」ということでしょうか。村上選手の記録は、日本選手最多ではあっても、年間本塁打の新記録ではありません。外国選手(バレンティン。ヤクルト所属)の六十本があります。これがまったく問題にならないで、「日本人では最多」という捉え方は実に滑稽じゃないですか。比較するというのは、一ミリ二ミリの、微小な違いを「針小棒大」にする作業なんですか。

これは野球に限らないし、日本だけのことではないでしょう。中には「日の丸」や「都道府県旗」を背中に、それぞれの試合に臨む選手がいるのかもしれない。ぼくは野球は好きだが、「都市対抗野球」ばかりは嫌いで、一度だって観戦したことがなかった。遊びだったかもしれないが、野球の冒涜につながっていましたね。軍旗はためくというのとは大いに趣は違うでしょうが、スポーツは国や国民のためにするものではないと言ったら、批判されますかな。自分のためと、どうして言わないんですか。そこに、この地のスポーツに特有の「胡散臭さ」がついて回っていると思う。大相撲は「プロレス」みたいなものだから、勝ち負けに血道を上げる(力士もファンも)のは、少しは違うようにも思われます。まるで歌舞伎や芝居のようなもので、「贔屓(ひいき)」の流儀というのがあるのでしょうね。大相撲の土俵入りを聞いていると、必ず「出身国」「出身都道府県」が紹介されます。これはこれで理屈があるのでしょうか。

繰り返す。スポーツ選手は国や出身地のために成績を上げ、勝ち負けに拘(こだわ)るのではないでしょう。自らの活躍に応じて結果がついてくる。それが新記録であれば、同郷の人でなくとも嬉しいでしょう。メジャーリーグの大谷選手、彼は日本人だからすごいのではなく、能力的に勝れているから素晴らしい記録を示しているのではないですか。それを素直に、喜ぶ、歓迎する、そこに「日本人だから」という形容句はいらないな、といいたい。ここで駄弁っていることは「どうでもいいコト」です。でも、野球ファンが「贔屓選手」「同郷選手」の記録達成を喜ぶのと、新聞やテレビが「デカデカ」と記「日本人として最多・最高」と記事やニュースにするのとは意味が違う気もするんですよ。野球は「民族」でやるものではないし、もちろん「スポーツ」それ自体がそうでしょう。今の五輪のように「国別対抗戦」みたいなことになれば、スポーツでも競技でもなく、「競争」「対抗」に成り下がってしまいませんか。もちろん、それで十分という人はいるでしょう。どうぞ、お好きに。
ぼくが、段々とスポーツ嫌いになっていった理由のかなりな部分は、民族や人種、あるいは所属国が、アスリートのお腹か背中か、表に出てきたからではないかと考えている。単純な「スポーツ好き」と言うのは、以外に難しい立場なんだな。これこそ、麗しき「伝統」なんでしょうね。「源平合戦」もどきの「紅白対抗」が、早い段階から学校で繰り返し行われていますね。紅白ならぬ、白黒を付けて、勝ち負けを明らかにしたんですね。ぼくには受け入れがたいこと。違う方法がありそうですが。(いつもみたいに、書かなくてもいいことを書きました。だから、「駄文」ということになるのでしょうね)
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蛇足です。どんなにすごい記録でも、いつかは破られます。「記録は破られるためにある」と言われるぐらいです。その記録を、早い遅い、多い少ないなどといって、簡単に、数字だけでは比較できませんね。だから、その時、その時の記録が貴重なんだと言いたい。「日本人で最多」も、たしかに「数」ではそうですが、もう少し吟味すると、違った判断が求められるようにも思います。例えば、同じ50本でも、試合数の多少があるとなると、単純な「数だけ」の比較は無意味ですね。それもこれもすべて含めて、達成された段階の記録が尊重されるべきなんでしょうね。「贔屓の引き倒し」にならないために、スポーツ好きはなにをすれば間違わないのか、どんな態度が求められるのか、一考を要する問題ではないですか。「日本人で、未成年で、高齢者で、最高・最速・最長…」などという、その狙いはなんですかね。序列を付けたがるし、その序列の内容が意味不明になっていないか。(どうでもいいことですが)
何ごとによらず、「好きになる」は情念ですから、一度、それ(情念)が野放しになると見境がつかなくなるんですよ。「愛」というのも「憎」というのも、出どころはいっしょなんですね。根っこはいっしょ、だから「愛憎半ばする」というのです。愛という情念がなければ、人を憎むことも難しい。「泣き笑い」もそうでしょうね。感情が強まると、どちらの場合も「涙」が出ます。「喜怒哀楽」は、基本は「情念(passions)」というはたらきによるもので、過ぎたるは及ばざるが如し、ということになるのです。
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数日前に、インドネシアで行われたサッカーの試合で「ホームチーム」が負け、怒ったファンが試合場になだれ込み、それに対して警察が催涙ガスを発射し、暴動になって、多数の死者が出たとされます。これはどういうことでしょうか。サッカーの勝ち負けが、別の条件(要素)に引き換えられてしまったのではないか。「贔屓(ひいき)の引き倒し」なんでしょう。その有り様は「贔屓しすぎて、贔屓している当事者を不利にしてしまう」ということらしい。プロ野球などでも、以前はよく見られた光景です。応援が嵩じて、当のチームを「やばくする(不利にする)」というようでした。相当前に、南米のあるチームがサッカーの試合で「オウンゴール」で負けたことがあった。その選手たちが帰国した際、当の選手が射殺されたとことも、ぼくの記憶に残っています。

【エスコバルの悲劇】コロンビア代表を襲ったワールドカップ史上最悪の事件とは サッカーワールドカップのブラジル大会で、6月25日に日本と激突するコロンビア。1994年のアメリカ大会の直後に起きた「エスコバルの悲劇」からまもなく20年を迎える。この大会で、DFを務めたアンドレス・エスコバルを襲った事件は今もワールドカップ史上最悪の事件として語り継がれている。(中略)当時の報道によると、犯人は銃弾を放つ瞬間に「オウンゴールを有り難う」と言ったという。サッカー賭博に絡んだ犯罪組織の関与などの憶測が流れているが、今も真相は、はっきりしていない。エスコバルの葬儀には12万人を超える人々が参列し、この事件を機に何人かの選手がコロンビア代表を辞めている。(https://www.huffingtonpost.jp/2014/06/10/andres-escobar_n_5476929.html)
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