【談話室】▼▽音楽活動は順風満帆だった。「愛の告白」「そよ風の誘惑」が全米1位となり世界ツアーで飛び回る日々。そんな時、歌手オリビア・ニュートン・ジョンさんの元にミュージカル映画「グリース」の主演依頼が届いた。▼▽当時28歳で、高校生役を演じるのは無理と断るつもりだった。もう一人の主役に内定していたのが気鋭の俳優ジョン・トラボルタさん。相手役はオリビアさんしかいないと惚(ほ)れ込み、自宅を訪ねて説得する。「俳優の中で実年齢を演じる人は一人もいない。普通のことだよ」▼▽背中を押されたオリビアさんはハリウッドでスクリーンテストに臨み、決断する。「決めたわ。私、やる」-。今年6月に出版された自伝で、出演までの経緯を振り返っている。映画「グリース」(1978年公開)は世界的に大ヒットし、歌姫は新たな境地を切り開いた。▼▽乳がんの再発と闘いながら音楽活動を続けてきたオリビアさんが73歳で旅立った。「心の誓い」という曲を歌う際は観客にこう語りかけた。「自分自身に負けないよう、元気づけるために書いた歌よ! 困難に負けては駄目!」。透き通った歌声に励まされた人は多かろう。(山形新聞・2022/08/10)
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*Have You Never Been Mellow(https://www.youtube.com/watch?v=1B2_Vyvazts)
*Take Me Home, Country Roads(https://www.youtube.com/watch?v=uHOTmMpux9E)
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歌手のオリビア・ニュートンジョンさん死去、73歳…「フィジカル」「そよ風の誘惑」 【ロサンゼルス=渡辺晋】「そよ風の誘惑」「フィジカル」など世界的なヒット曲で知られる歌手のオリビア・ニュートンジョンさんが8日、米カリフォルニア州で死去した。73歳だった。家族がSNS上で公表したと、AP通信が報じた。/ 英国生まれのオーストラリア育ち。1966年に英国で歌手デビューし、「愛の告白」で74年度の米グラミー賞最優秀レコード賞を受賞した。爽やかな高音が魅力で、「そよ風の誘惑」は全米ヒットチャート1位に。日本では「カントリー・ロード」「ジョリーン」なども人気を集めた。音楽ビデオでのレオタード姿も話題になった「フィジカル」は、82年の米国の年間チャートを制した。/ 女優としても、ジョン・トラボルタさんと共演した78年のミュージカル映画「グリース」などで脚光を浴びた。歌手・杏里さんの「オリビアを聴きながら」で歌われるなど日本で愛され、2015年の来日時には福島市でも公演。昨秋、旭日小綬章を受章した。/ 40代で乳がんを患い、がん早期発見の重要性を訴える啓発活動も行い、環境問題にも取り組んでいた。17年、がんの再発を公表した。(読売新聞・2022/08/09)
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歌謡曲大好き人間、それも根っからド演歌に狂ってきた人間として、オリビアさんの訃報には隙間を突かれた気がしました。彼女について、ぼくは、通り一遍のことしか知らない。よく聞いた曲も「そよ風の誘惑」と「カントリー・ロード」だけでしたから、その死を受け止めかねています。しかし、歌手として、俳優としての活動よりも、むしろ「がんの早期発見」にかかわる先駆者として、その活躍ぶりは音楽活動に比しても劣ることのない、大変に貴重な啓蒙活動だったと、その点で、ぼくは彼女の生涯が忘れられないものになっていたのでした。文字通りに「身命をとして」の啓発行為だったからです。人生の後半生は「がんとの闘い」(そのものだったと思う)に明け暮れたし、その厳しい人生の歩みを、彼女は一歩も忽(ゆるが)せにしなかったという、その点でぼくは(もちろん、ぼくだけではない)、大きな励ましを受けていたといえます。彼女の歌う「カントリー・ロード」もよく聴きました。それにもまして「そよ風の誘惑」は、自らの人生の行く末を、じつに明白に明示していたという意味でも、ぼくにとっても、忘れられない一曲になったのではなかったかと思う。(この歌をレコード化した時、彼女はまだ三十前でしたから、曲想に思いが込められるには、その後の、何年にもわたる人生が必要だったのではなかったか、と今の年齢にして、ぼくは自問しているのです)
Have You Never Been Mellow There was a time when I was
in a hurry as you are.
I was like you.
There was a day when I just
had to tell my point of view.
I was like you.
Now I don’t mean to make you frown.
No, I just want you to slow down.
Have you never been mellow?
Have you never tried
to find a comfort from inside you?
Have you never been happy
just to hear your song?
Have you never let someone else
be strong?

Running around as you do
with your head up in the clouds,
I was like you.
Never had time to lay back,
kick your shoes off, close your eyes.
I was like you.
Now you’re not hard to understand
you need someone to take your hand.
Have you never been mellow?
Have you never tried
to find a comfort from inside you?
Have you never been happy
just to hear your song?
Have you never let someone else
be strong?
いのちあるものは、きっと、尽きる時が来る。死は生の反対ではなく、そのピリオド(完結点)ではないでしょうか。永らえてきたいのち(そこまでの人生)の句読点(punctuation marks)。「終わってしまった」「命尽きる」と、多くの人は考えますが、ぼくは、その、打たれた「句読点」を忘れない。そこから始まる「人生」もあるのだ、という想いが強くあるからです。それが残されたものへの「余韻」となって、いのちある限り、生者の心に響き続けるのではないでしょうか。昨日は、現代では稀有な「精神科医(臨床医)」だった中井久夫さん、その前は年下の畏友だったK君と、ぼくにとっては大切な人の死を知らされました。いま、ぼくの耳にはオリビアの「リフレイン」が聞こえている。

Have you never been mellow? Have you never tried
to find a comfort from inside you?
Have you never been happy
just to hear your song?
Have you never let someone else
be strong?
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異国の一人の歌手の死。ぼくにはまったくの赤の他人だったし(もちろん、彼女にとっては、ぼくは「無」そのものでしかない)、忘れられないほど強く憧れたわけでもありません。しかし、いまから四十年以上も前に、一瞬耳にした一曲が、ぼくには強く印象付けられたのです。これをもし「出会い」というなら、ぼくは、海の向こうの未知の歌手と遭遇したのです。そして、この三十年、いつとはなく、彼女の「がんとの闘い」が、ぼくの脳裏に刻印されてきたのでした。ぼくはいま、「Have you never been happy just to hear your song?」と口ずさみながら、彼女にお別れをいう。
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