蝉鳴くや我が家も石になるやうに(一茶)

 【くろしお】立秋 今では夏になると普通に鳴いているクマゼミ。だが県北の山間部に住んでいた頃は、図鑑でしか見ない大型のセミだった。大型のセミといえば茶色い羽のアブラゼミばかりで、クマゼミの透明な羽に憧れた。▼最初にクマゼミを見たのは半世紀ほど前、国鉄(現JR)日豊線の青井岳駅だったと思う。列車が止まって、何気なく窓から外を見たら、ホームの電柱に大きなセミが止まって鳴いている。透明な羽に興奮し、飛び降りて捕まえたかったがすぐに列車は動き出した。▼その後見かける度に歓声を上げていたが、近年は住宅地でも公園でもわんさか木に止まっており、珍しい存在ではなくなった。むしろ貴重に思えてきたのがアブラゼミ。世界にセミは3千種類ほどいるものの、アブラゼミのように茶色い羽を持つセミは大変珍しいそうだ。▼南方に多かったクマゼミの分布拡大が地球温暖化に関わっているかは分かっていない。6月のことだが川南町の知人が「夏の終わりのヒグラシがもう鳴いていた。異常気象では」と語っていた。セミの鳴き声で季節の移ろいを感知する日本人の習性として、順番の混乱は確かに調子が乱れてしまう。▼今日は立秋。連日の猛暑とセミのけたたましさにまだ夏真っ盛りの気分だが、夜は涼しく吹く風の中に秋の虫の声が混ざる。この夏は新型コロナで中止していた恒例行事が多く再開。人々のエネルギーが噴き出す各地の祭りが終わる度に秋の気配が濃くなる。(宮崎日日新聞・2022/08/08)

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 コロナだ、酷暑だと言っているうちに、ときは「立秋」、やがて秋本番を迎えるというのです。その盛夏から晩夏、初秋へと季節は移りゆく、その移ろいに華を添えるのか、伴走(伴奏)のようにか、いろいろなセミが鳴き声を競っています。その多くのセミがいろいろな鳴き声を響かせているうちに、やがて、季節は確実に急ぎ足で過ぎていきます。これまではそうでしたから、これからもといいたいところです。しかし、すでにセミの鳴き声が、季節の感触を問わずに鳴き競っています。昨日は、隣の市では「大雨警報」が出され、一事、停電があったし、雷鳴が轟(とどろ)き、しばしパソコンの接続線をコンセントから抜いていました。幸いに、大雨はひどくなく、ものの三十分くらいで止んでくれた。

 今日の「くろしお」というコラムにセミのことが出ていました。昨日(八月七日)の暦について、です。昨日は立秋で、そのこころは「涼風至る」という。なかなか暦通りには行かないのが、当節では当たり前。この二十四節気も七十二候も、基本は旧暦での決め事ですから、間尺に合わないのは当然だし、更に加えて「気候変動」というのでしょうか、この劣島は「熱帯」に変わってしまったかのような気候の具合です。春の終わりから、セミは鳴き通しですが、何と言ってもセミの季節は夏であり、秋の奔りでしょう。拙宅の周囲は雑木林ですから、セミはふんだんに鳴き続けています。どの声が、どのセミだか、もう区別もつかないような塩梅です。これでも小学校時代は、毎年夏休みには「セミの標本」を、飽きもせずに作ったものです。休暇中の毎日が「セミ取り」といった明け暮れでした。その当時は、なかなかの「セミ博士」でした。その後、長期の都会生活に馴染んでしまってからは、セミとの縁が切れました。

 ねこが競って「生き物」を家の中に持ち込みます。このところ、最も多いのがセミです。どういうわけですか「クマゼミ」がいちばん多く、アブラゼミはまず見かけなくなりました。散々弄んだ挙げ句に、セミを絶命させるという残酷さは、どのねこにも共通している。今生における長くないいのちを、奪ってどうするんだと言っても言うことを聞かない、聞く耳を持っていないかのようです。やがて、ツクツクボウシが鳴き、ヒグラシ(蜩)が鳴くと、我が身までもが心細くなる始末です。でも、うぐいす(鶯)は、まだまだ美声を誇っているのです。

 セミは卵から幼虫になり、土中で十年前後、長いのだと十五年を超える生育歴を持ちます。セミの生涯は、まるで奇跡に満ちています。少々神がかっているともいえます。成虫になると、これまた驚くほど短命で、一、二週間とされています。これを知って「セミの命は儚(はかな)い」と思うかどうか。卵時代から数えれば、およそ十数年です。生きて何かができる時間というものは、人間であっても驚くほど短いとも言えるし、その間に、何でもしてしまいたいと願うから、何かと過ちを犯すのかもしれません。「秋は患い(憂い)の季節」だと誰が言ったのか、今はもう秋と、ぼくはかなり前に駄文で書きました。その「秋」にあって、魔夏のような酷暑が襲っているのです。海水温が異様に高い状態が続いていますから、大きな台風が襲うことが予想されます。更に局地的な豪雨をもたらす「線状降水帯」の発生も、各地で頻繁に生じています。すでに劣島の東西で、大きな被害がもたらされています。夏も秋も、近年では、一筋縄ではいかない状況が何年も続きます。やがて、セミが鳴かない夏や秋が来るのでしょうか。

 ・夏去りてひとそれぞれの骨休め(無骨)

●クマゼミ(くまぜみ / 熊蝉)[学] Cryptotympana facialis昆虫綱半翅目(はんしもく)同翅亜目セミ科Cicadidaeに属する昆虫。大形で、体長40~48ミリメートル。体は太く頑丈で、全体が光沢のある黒色。はねは透明で、前翅前縁は黄緑色。雄の腹弁は長円形で、美しい橙(だいだい)色。腹部背面には白い帯が現れることがある。関東地方以西の平地に広く分布し、7~8月に出現し、朝、梢(こずえ)などでシャー、シャー、……とけたたましく鳴く。センダンを好み、ときにこの樹幹に群れる。/ 石垣島と西表島(いりおもてじま)には別種のヤエヤマクマゼミC. yayeyamanaが分布するが、この種はクマゼミよりわずかに大きく、体長44~50ミリメートルで日本最大種である。翅脈は黒色、雄の腹弁も黒色から赤褐色で角張る。山間部に多く、午前中ミーン、ミーン、……とミンミンゼミのような声で鳴く。(ニッポニカ)

● アブラゼミ(あぶらぜみ / 油蝉)[学] Graptopsaltria nigrofuscata昆虫綱半翅目(はんしもく)セミ科の昆虫。北海道から屋久島(やくしま)までの各地、朝鮮、中国に分布。体長34~40ミリメートル。はねは赤褐色で不透明、中胸背は一様に黒色で、腹部両側は白粉で覆われる。7月中旬から9月下旬に出現するもっとも普通なセミで、ジージリジリジリと鳴く。卵期は約1年、幼虫は地中で樹木の根から汁を吸い、7~8年を経て成虫になる。成虫の寿命は1~2週間。ナシ畑やリンゴ畑などに集まり、果実の汁を吸い、また果実に産卵するので、害虫とされることがある。(ニッポニカ)

● (セミの)生活史=セミは、はかない命の代名詞になるくらい寿命が短いとされている。ところが、実際は、成虫期間は普通10~20日間に及ぶ。一方、幼虫期はきわめて長く、数年から17年の地中生活を送る。頑丈な産卵管で植物組織内(おもに枯れ枝中)に産まれた卵は1~2か月または約10か月で孵化(ふか)し、幼虫は自発的に地上に落下し、土のすきまをみつけて地中に潜る。1~2ミリメートルの1齢幼虫は根から樹液を吸いながら成長し、4回の脱皮を繰り返して終齢(5齢)となる。このころには、いままで白かった体も褐色となり、1年から数年後に成虫へと変身する。卵から成虫までの期間は一部の種でわかっており、アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミなどで6~7年、ニイニイゼミで4年、イワサキクサゼミで2年、北アメリカの周期ゼミMagicicada spp.で13年または17年である。成長期間は卵期の長さとやや関係があるように考えられる。十分成育した幼虫は夕方から夜半にかけて地上に現れ、木に登って羽化する。羽化4、5日後に雄は鳴き始める。(ニッポニカ)(下の標本画はニッポニカより)

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 「立秋」の俳句を三つほど。                                         ・秋たつときけばきかるる山の音 (飯田蛇笏)                                   ・秋立つや一巻の書の読み残し (夏目漱石)                                 ・秋立てば淋し立たねばあつくるし (正岡子規)

 「セミ」の俳句を三つほど。                                         ・蝉生る寸土一つの穴ありき (山口青邨)                                  ・蝉鳴くや八月望のうすぐもり (水原秋櫻子)                                ・庭園に蝉とめどなく鳴く別れ (金子兜太)

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