【斜面】食料の因果は巡る 「大豆ショック」との記事を1973(昭和48)年6月の本紙が報じている。世界一の生産を誇る米国が禁輸を断行。75%を米国から輸入している日本は深刻な影響を受け、豆腐など日本人に欠かせない大豆食品が途絶えかねない、と◆凶作に苦しんでいたソ連が米国産大豆の買い付けを始めたのが発端だ。米国内の大豆が不足して価格も急騰。飼料に必要な畜産農家が批判の声を上げていた。当時ウォーターゲート事件で追及されていたニクソン政権の人気取りの自国優先策でもあった◆大豆ショックの衝撃は余程強かったのだろう。田中角栄政権は輸入先の分散を計る。ブラジルと協力し、広大な半乾燥地帯を開拓して大豆を生産する事業に取り組んだ。ブラジルはその後、米国を脅かすほどに成長。今や中国にも頼りにされる世界有数の巨大生産国に上り詰めた◆ソ連時代に受けた仕打ちへの意趣返しなのか。食料を武器にしたロシアの振る舞いが目に余る。ウクライナの小麦の輸出を阻んでいる。国際価格の高騰は思惑通りか。自国産の輸出で莫大な利益を得ているはずだ。アフリカや中東の人々の飢餓を尻目に◆国連事務次長の中満(なかみつ)泉さんが本紙「多思彩々」で書いていた。食料難はさらなる不安定要因となり、紛争の火種になるだろう。これほど世界が崖っぷちにあるように感じたことはなかった、と。やせ衰えて尽きる命を救うため食料を武器にした争いを止めなければ人類は谷底に落ちていく。(信濃毎日新聞・2022/06/14)
「ひもじ(い)」という言葉が浮かんできました。今だって、多くの人々が「ひもじ(い)」思いをしているでしょう。これはほんの趣味の問題のようですから、ぼくだけの判断で、何人もそうすべきであるという気もありません。動物を「躾(しつ)ける」「訓練する」のに「食餌」を使うということがぼくにはできない。人間が思うとおりの「芸当」「しつけ」ができたら、好物を与えるというやり方、それは人間の「養育」「教育」にも盛んに利用されてきました。いわば「飴と無知」とでもいうような、実に嫌味の訓練法ではないですか。雨と無知に動かされなkレば、「しつけ」は成功しないというのは、逆にえば、人間の動物化そのものだともいえます。

「ひもじい」という語が「ひ‐だる・い【饑い】[形][文]ひだる・し[ク]空腹である。ひもじい」に由来し、その「ひ」に「文字」が付いたとの説明が辞書にはありました。「ひ文字」と。(デジタル大辞泉)「饑える(うえる)」「饑い(ひだるい)」には「水飢饉・水饑饉(みずききん)」などという語が当てられています。漢字の詮索や表記法はどうでもいいことで、要するに、人であれ、動物であれ、それを「餌」にして「支配する」という行為は、ぼくにはけっして認められない方法だというのです。「ひもじさ」から抜け出したければ、俺の言うとおりにしろ、そうすれば「小麦」は少しは譲ってもいい、そんな理不尽・不当な人間の扱いが、戦時であれ、平時であれ、まかり通っていること自体、ぼくには許しがたいことに思われるのです。ひもじさも「分け合う」という精神がなければ、人間の付き合いとしてはまっとうではないというべきでしょう。

今も言われるようですが「食料安保」という立場、それがそもそもの間違いでしょう。食べ物を弄んでいるからです。「武士は食わねど高楊枝」という表現がありましたが、それは「やせ我慢」であり、理の通らないことには筋を通すということでもあるでしょう。それはあくまでも個人の問題、態度です。食事を摂る摂らないの問題ではないですよ。国連の「難民」に関する資料を見ていると、いたるところに「食料安保」の防衛線が張られているし、年に何百万が餓死しても、当面は自らの政治経済面に痛痒を与えないから、言われる「フードロス」も、豊かさの反映なんだという安直な姿勢が、この島社会でも何時だって顔をのぞかせています。「国連事務次長の中満(なかみつ)泉さんが本紙『多思彩々』で書いていた。食料難はさらなる不安定要因となり、紛争の火種になるだろう。これほど世界が崖っぷちにあるように感じたことはなかった、と。やせ衰えて尽きる命を救うため食料を武器にした争いを止めなければ人類は谷底に落ちていく」と、やはりここでも記者さんは「常識」通りの穏当な「見識」を書いておられる。ぼくに言わせれば、とっくの昔に「人類(のいくばくか)は谷底に落ちて」いるのです。

ある特定の国が、どんなに破天荒なふるまいをしようが、道義に照らしてすべての国がそれを受け入れないかというとそうではありません。誰がどう考えてもその行為は許せないという「侵略」「核武装」などを強行しても、それを支持する国々が現れるのですから、始末に負えないんですね。具体的な国名を挙げるならいくらでも紹介できます。そんな「出鱈目」をほしいままにしている国々を支持し、支援するというのは、はっきりした背景や理由があるからです。一言で要約するなら「覇権競争」です。世界の政治や経済は、決して「道徳」「理性」「友情」などという軟(やわ)なもので動いているのではありません。「勝てば官軍」という言い草がこの島以外にもあるでしょうが、勝ってしまえば、すべては許され、帳消しにされるということでしょう。今現在「ウクライナ侵略」を進めているロシアに対して、それなりの筋の帰還や団体が「戦争犯罪」を数え上げ、人道上の罪を糾弾してはいます。でも、はたしてそれをかの国や権力者に容認させられるかどうか。とにかく勝つんだ、それで終わり、言う。

「If you win, the government army, if you lose, the thief army」という言い方が合っているかどうかわからないが、いかにもそのような気がしますが、勝てばいいだろうという、その態度には、驚くべき頽廃と根本からの腐敗が進行しています。現下のロシアが「万難を排して」「あらゆる手段を駆使して」、ウクライナを壊滅させようとする。そうすれば、それは「官軍」であり、どこからも文句が付けられないというのでしょうか。「勝者が敗者を裁く」という「戦争裁判」には大きな錯誤があります。それは断じて認められない方法です。(この部分に関しては、進行中の「侵略戦争」の帰趨が見えてきたところで再論したい)
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今回は、ここまでで終わりにする予定でしたが、大豆や小麦の危機がこの島にも及んでいるという記事(コラム)を紹介したくなりました。「豆腐」は貴重な食材ですが、豆腐らしい豆腐という、あたりまえのことをいうのですが、そんな大豆商品も簡単には手に入れることは困難になる気配です。何でもない食品ですが、その多くが他国からの輸入に頼っている現状は、いずれ「食糧危機」は避けられないという、島社会の未来を暗くします。「自給自足」などより、輸入に頼る方が経済的にも遥かにコストもかからないとでもいうのでしょうか。この小さな島国が多くの商品の製造拠点を、国内から海外に移してきたのは事実ですが、その結果、いったん出先地域で事が起こるとどうなるか、これまで何度も経験してきたことですが、「羹(あつもの)に凝りて、膾(なます)を吹く」という珍芸を今もまた続けていきそうな気配ではあります。腰を据えて「国内生産」という構えが取れないのでしょうか。
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【雷鳴抄】まちの豆腐屋 栄養成分が豊富で価格も手頃な食材の一つに豆腐がある。季節に合った味わい方を楽しめ、夏場は冷ややっこもいい▼総務省の家計調査によると、豆腐の月別支出額は例年7、8月が最も多く、鍋物や湯豆腐に欠かせない冬季を上回る。暑い盛りにさっぱりとした食感などが好まれるようだ▼家計調査は本県の「豆腐好き」もうかがわせる。直近の品目別都道府県庁所在市ランキングで、宇都宮市の年間平均購入量は93.36丁で全国6位と上位だ。しかし、豆腐製造を巡る県内の現状は厳しい▼県と同市によると、本県の豆腐製造業者は2002年の277軒から21年は102軒と20年間で6割強減った。多くは小売りも兼ねた個人営業の「まちの豆腐屋」とみられ、高齢化や後継者難、大手メーカーとの価格競争などが要因とされる▼「全国豆腐連合会」(東京)によると、豆腐屋の減少は全国的な傾向といい、連合会も品質向上に向けた品評会の主催や新規開業のサポートに乗り出している▼スーパーなどの食品売り場では木綿や絹ごし、寄せ豆腐などのパック詰めが所狭しと並ぶ。消費者も価格やサイズで選べることができ、手にしやすいだろう。でも、地元の豆腐屋が手作りしたこだわりの一品が食卓に並ぶ日があってもいい。地域に根ざした和食文化の担い手は地域で支えたい。(下野新聞・2022/05/26)
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