【明窓】マッドマン・セオリー 「勝者は後になって我々が真実を語ったか否かについて問われはしないであろう。戦争を開始し、戦争を遂行するに当たっては正義など問題ではなく、要は勝利にあるのである」。ドイツのヒトラーは、ポーランド侵攻前にこう宣言したそうだ。日本にも「勝てば官軍」の言葉がある。しかし内心ではそう計算していても、それを公然と断言するリーダーは数少ない▼「プーチンの戦争」と言われるロシアのウクライナ侵攻から明日で4週間。「北大西洋条約機構(NATO)の拡大は自国の脅威」という理屈付けのようだが、それで隣国への侵略行為が正当化されるわけではない。まして原子力発電所への攻撃や占拠は世界を震撼(しんかん)させた▼国際社会では「常軌を逸している」「正気とは思えない」など、プーチン大統領の精神状態を不安視する報道さえ見受けられる。それが計算ずくの「マッドマン・セオリー(狂人理論)」と呼ばれる戦術なのかどうか▼ニクソン元米大統領がベトナム戦争時や当時のソ連との交渉で使ったとされるこの外交戦術は、相手に「核の使用」や「世界を破滅させることも辞さない」強硬姿勢を見せることで最大限の譲歩を引き出すのだという。いわば「禁じ手の威嚇戦術」のようなものだ▼それを倣ったかのような今回のプーチン氏の言動。ヒトラーがいなくなっても「核」がある限り、そんな「脅し」が繰り返される。(己)(山陰中央新報・2022/3/23 04:00)
元総理大臣の田中角栄さんには、いろいろなエピソードがあります。高等小学校を卒業して上京、苦学して建築土建業を興し、やがて政界に出ることになる。その後は権力の階段を上り詰め、その絶頂期に、醜聞(スキャンダル)にまみれて、奈落の底に突き落とされた、そんなジェットコースターのような、激しい上下動の中での遽(あわただ)しい生涯ではありました。「土建屋」という表現は、決して上品なものではないどころか、その職種・職業を貶めるために使われる嫌いがあります。角さんは、みずからの「土建哲学」とでもいうのでしょうか、しばしば、その本質を世間に広言していたものでした。自分の家の隣の土地がなんとしても欲しいとなったらどうするか。「簡単だ。朝から晩まで、隣に聞こえよがしに、空き缶(かなにか)をガンガン叩きつづけるんだよ(いやがらせ)」最後には、隣は嫌気がさして、土地を手放すというものでした。実際に彼がそのような手法で、どこの土地を手に入れたのかは知りません。しかし、国家が規定した「土地収用法」なるものは、まさにこの「土建哲学」(といっては、「哲学」は穏やかではなかろう)の根性で作られている。だから「土建国家」といわれるのだ。
これをも「マッドマン理論」というのでしょうか。欲しいものを手に入れるには「手段を択ばず」で、相手に恐怖心を抱かせ、何をするかわからない「狂人」の風を装えば、相手は気味悪がって逃げ出すだろうという。あるいは「狂言強盗理論」とも言えそうで、いずれにしても「賤しい理論」もあったものだ。けっして、政治や行政は、そんなものではないでしょう。人倫という箍(たが)が外れれば、何でもありで、質の悪い「香具師(やし)(あるいは的屋)」稼業ではないですか。これは、ニクソン元アメリカ大統領が始めた「盗人にも三分の理論」とでも言っておくしかない屁理屈です。自らの野心や野望を成就する(させる)ためには手段は択ばない。その通り、ニクソンという本業弁護士、副業政治屋はベトナム戦争終了の「和平協定」に一定の役割を果たし、米中会談を促進したという積極面もありましたが、最後は「ウォーターゲート事件」で失脚します。時代が降るにつれて、政治において何かを成し遂げよう(自己実現ともいうのでしょうか)、そんな疚しい目的を持った人間は、自分の好みの「政治家像」を学ぶから、そこには前時代には見られなかった「過激」で「禍々(まがまが)しい」政治信条を備えた「鬼面」政治屋が続出するでしょう。
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◉ 香具師(やし)=「野師」「矢師」「弥四」とも書く。「的屋 (てきや) 」ともいう。縁日,祭礼など人出の多いところや,盛り場,街頭などで,居合抜 (いあいぬき) ,独楽 (こま) 回し,手品,へび遣い,曲芸などの見世物を演じながら,各種の薬品,商品を売る者。親分格の者が,場所割当てなど全般にわたって支配権をもち,のちには香具師とは別の露天商人をも支配するようになった。この慣行は,現在でも残っている。(ブリタニカ国際大百科事典)






プーチンは、とにかく希代の「自己拡張型」人間です。(実際は、身長が低いからなおさら)自分が大きいということを、世に見せつけるためにこそ、権力への険しい階段を上り続けてきたのです。上りだしたら、途中で下ることが出来ない人間だった。まるで上昇一方のエレベーターに乗ったようなものです。高くなればなるほど、見えてくる景色はちがってくるし、それ以前には見えなかったものが見えてきます。あれも欲しいこれも欲しいと、自己抑制が効かなくなったのも頷けます。田中角栄風に言うなら、ひたすら「空き缶叩き」を続けてきたのです。百年前には存在していなかった武器もある。それを「空き缶」に見立てて、叩き出したのが、「生物・化学兵器」や「核も使う」という物騒な暴論(脅し)です。しかし、プーチンならやりかねないと、世界が恐怖を抱くのですから、「思う壺で」、堪らない気分でしょう。
彼が求めてきたのは「旧ソ連」時代の失地回復がまず第一でした。だから、チェチェン戦争、クリミヤ奪取であり、それを突破口としてウクライナを取り戻すことにあったのです。第二は、NATO勢力の東進を潰すこと。さらにいえば、アメリカ体制の破壊、それが第三の野心でした。所有している「核兵器」を(仮想)武器に使えば、欧米は何もできないという学習(北朝鮮の経験)を彼は確信していたのです。もっと言うなら、彼はアメリカを見下したかった、そのためには武力で恫喝し、それを真に受けないなら、核使用も辞さないという、見事な「(正気の)マッドマン」を演じているのです。老化現象が著しい米大統領には、いささかの存在価値も認めていない。もちろん、そのために、中国には「媚びを売る」などという「マッドマン」ぶり(韓信の股くぐり)はしても、決して軍門に下ることはしない。だから、彼には「遊び」(というのも不謹慎ですね、「余裕」と言い換えます)がまったくないのです。このような、「瀬戸際戦争論」は、あるいは北朝鮮「金王朝」から学んだかもしれない。だから、「皇帝」なんですよ、危険極まりない「皇帝」だ。
こんな「破天荒」な野心や野望を抱くのが政治家であり、権力者だったのであって、その意味では、大なり小なり、人は(すべてとはいえませんが)政治家の資質を持っています。「マッドマン(狂人)」の振りをしているうちに、本物の「狂人」になることはいくらでもあります。プーチンがそうであるかどうか、それは、ぼくにはわかりませんが、じっさいに、こんな「非道」「悪逆」ができる人間は、幾分かは、あるいは大部分は「狂気」に犯(冒)されているのです。先に引き出してきた「空き缶叩き騒動裡論」、これは古典的でもある。他人が嫌がることを、めげないでやり通す、そうするとそれがいつしか通る。「泣く子と地頭には勝てぬ」「勝てば官軍」とは、「手に入れるために、なんでもする」ということです。そこには「国民」や「民衆(人民)」などは、まったく存在していないのです。
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◉ あり‐じごく ‥ヂゴク【蟻地獄】=〘名〙① 昆虫類、アミメカゲロウ(脈翅)目、ウスバカゲロウ科の幼虫の総称で、おもにウスバカゲロウやホシウスバカゲロウの幼虫をいう。体長約一センチメートル。灰褐色で細かいとげがあり、大きなはさみのような口器がある。砂地など、乾いた地面に頭で土をはね飛ばし、渦巻状に後ずさりしながら、すりばち状の穴をつくってその底にひそみ、落下したアリなどの体液を吸うのでこの名がある。うしむし。あとしざり。すりばちむし。あとさりむし。ありのじごく。《季・夏》〔生物学語彙(1884)〕(精選版日本国語大辞典)
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言うまでもないことですが、ぼくは政治家ではないし、政治評論家でもなく、政治学者でもありません。だから、素人は黙っていろという向きがあるかもしれません。しかし、この時代に生きており、どこかで勃発した暴力や戦争の余波が、ぼくにも火の粉として飛んでくるなら、それを払わなければならないでしょう。悲しいかな、政治的問題に関心はあっても情報もなければ、それを収集する興味もないという、ないないづくし人間であります。しかしというか、だからこそ、大胆に、かつささやかに、「ダメはダメ」「間違いは間違い」というだけの自由は、十分に尊重したい(活用したい)のであります。それを言っているかたわらで、いささか裏道の、外からは見えないところで、困難に遭遇している人たちの側に立つための、ささやかな姿勢を維持しようとしているのです。
現代に現れ出た、希代の野心家、自らの野心を果たすためにあらん限りの無法・無慈悲をほしいままにしているのを、列国の歴々は遠巻きに「侵略は断じて許さない」「人道上問題だ」とただ言ってるだけの不毛な光景を見ていると、なんという不節操、不義理という気が沸き起こってきます。早い話が、怒りです。
すでに「戦争犯罪人」を立証するための具体的活動を、ある国際機関が始めたと報道されていました。その前に、いくらでもやるべきことがあったはずでしたが、誰一人として、無謀な戦争行為を止めさせるための政治的方法を発揮した政治家はいなかったと思う。外交の要諦がどこにあるのか、それは誰かに任せるとして、戦争の駆け引きや勝ち負けが「外交」に成り下がっている現下の状況は、ぼくにとっては腹立たしい限りです。政治的決断をする勇気を持たず、自らの地位や権力に「恋々」「未練たらたら」、そんな連中が「指導者」であるという、人民の不幸をあざ笑っているのが「裸の皇帝」だというほかありません。無能で無気力な政治指導者の塊りを尻目・後目に、嬉々として蛮勇を振るい、蛮行に及んでいるのが「P」ではないですか。だが、彼も「人の子」らしい、だから、一点の疑心から、一抹の暗鬼が生み出されていないともかぎらない。影におびえることもあるのです。それが嵩じると、やがて「自暴自棄」になる。えいっ、ままよと「一蓮托生」の自暴自棄で、誰彼の区別なく地獄への道連れにするかもしれぬ。その前に、まず手を打つには、「皇帝」の足下にひれ伏すのではなく、胸ぐらをつかんで覚醒を促す、横面を張り倒す、ただ今の「災厄」の是非は、果敢なる政治家の、その「一事」にかかっているのです。
国際連合やICCやICJの現状を見ると、世界の大国、あるいは指導者などと自称・詐称している国家群がいかに、この組織を骨抜きにしてきたかが、だれにでもわかります。それだけ「恒久平和」だとか「国際協調」というものを、ひたすら形骸化するために、第二次大戦後の大半を使ってきたのではないかと、情けなくも思うのです。生命は尊い、人権はかけがえのない生きる基ですが、ある種の政治傾向を帯びた勢力は、つねにそれを足蹴にし、土足で踏みにじってきたのです。(そのロシアは、六年前にICCから抜けている。今日あることを決めていたからだ。もちろん、そんな組織には、端から拘束される気なんかあるはずもない、そんな「軟(やわ)」な魂胆の持ち主じゃありませんでしたが)
【解説】 戦争犯罪とは? プーチン大統領を裁くことは可能なのか〈抜粋〉 戦時に関する国際法では、市民や市民生活の要となるインフラは故意に攻撃してはいけないとされている。また、無差別攻撃を目的とした兵器や、悲惨な被害を及ぼす兵器は使用が禁止されている。化学兵器や生物兵器、対人地雷などがこれに当たる 病人や負傷者は(負傷兵も含めて)、手当てを受ける権利がある。負傷兵にはさらに、捕虜としての権利が与えられる。他にも拷問や、特定の集団を破壊しようとするジェノサイド(集団虐殺)も、様々な条約などによって禁じられている。戦時中の殺人や強姦、集団処刑など深刻な犯罪は、「人道に対する罪」と呼ばれる。第2次世界大戦以来、特定事案に管轄を限定した国際法廷が、たびたび設置されてきた。旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷などがこれに当たる。1994年にルワンダで起きたジェノサイドについても、責任者を追及するルワンダ国際戦犯法廷が開かれた。このジェノサイドでは、フツ人の過激派が100日間で80万人を殺害したとされている。 現在は、国際刑事裁判所(ICC)と国際司法裁判所(ICJ)が、戦時国際法を支える役割を担っている。 国際司法裁判所(ICJ)とは ICJは国家間の紛争を取り扱うが、個人を提訴することはできない。ウクライナは侵攻をめぐり、ロシア政府をICJに提訴する方針で動いている。ICJがロシアの法的責任を認めた場合、その判決内容の執行は国連安全保障理事会が担う。しかし、ロシアは安保理常任理事国であるため、自国へのあらゆる制裁案に拒否権を発動できる。 国際刑事裁判所(ICC)とは ICCは、ICJが管轄する国家同士の紛争とは別に、戦争犯罪を行った個人を捜査・起訴する。1945年にナチス・ドイツの指導者を裁いたニュルンベルク国際軍事裁判を、現代化・恒常化させたものといえる。国際法を守るための特別な裁判所を、各国の合意のもとに設置できるとする原則は、このニュルンベルク国際軍事裁判で確立された。 ICCはウクライナでの犯罪を裁けるか ICC検察局のカリム・カーン検察官(イギリス)は、ウクライナで戦争犯罪が行われていると「信じるに十分な根拠」があると述べており、39カ国がカーン氏の捜査に合意している。捜査当局は、ロシアがウクライナのクリミア半島を実効支配する以前の2013年までさかのぼり、現在や過去の疑惑を調べることになるという。捜査を通じて個人の犯罪行為の証拠が得られた場合、検察官はICC判事に、容疑者召喚のための逮捕状を要請する。ICCの裁判所はハーグにある。しかしここで、ICCの実務的な権限の限界が明らかになる。ICCは独自の警察機関を持たない。そのため、容疑者の逮捕は各国に委ねられている。ロシアは2016年にICC締約国から脱退しているため、ウラジーミル・プーチン大統領は、容疑者の身柄を引き渡さないだろう。アメリカも、ICCには参加していない。もし容疑者が他国に移動していればそこで逮捕も可能だが、その可能性は非常に低い。(BBCNEWS JAPAN【解説】 戦争犯罪とは? プーチン大統領を裁くことは可能なのか(2022年3月15日)


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実は「蟻地獄」(生物であり、それが掘った穴倉を指す)を語ろうとして、だんだんに、その気が失せました。これまでに何度も、ぼくは地べたに腹ばいになって「蟻地獄(生物)(ant lion)」の生態を、何時間も観察していたことがあります。「蟻地獄(生物)」といいますが、現下の状況に照らしてみて、いったい、それは誰のことなのか。ぼくは「プーチンの戦争」と、二月の「侵略」開始段階でいいました。そして「プーチンは墓穴を掘っている」と続けました。蟻地獄が「墓穴」をいうなら、彼は蟻地獄(生物)ではない、その「蟻地獄(穴)」に落ちる運命にあるのですから。一瞬のうちに「攻守所を変える」「政治(の世界)は一寸先は闇」といいます。いずれが魑魅か魍魎かということですね。今少しです、侵略が終わるまで。
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