A rolling stone gathers no moss.

【明窓】「転石」を胸に 英国には「転石コケを生ぜず」ということわざがある。フラフラと人生を送っていても何も身に付かないという戒め。ところが米国に渡ると、こんな前向きな意味に変わった。「活発に動く人は時代に取り残されない」▼この「転石」をグループ名に冠したのが、1962年に結成されたロックバンド「ザ・ローリング・ストーンズ」。英国生まれながら、その精神は米国式だ。ここ数年はライブこそ開いていないが、コロナ禍でもオンラインで演奏を配信し新曲も発表。モンスターバンドは今も転がり続ける▼メンバー最年長のチャーリー・ワッツはこの6月で80歳の大台を迎えた。バンドの顔であるミック・ジャガーとキース・リチャーズは77歳。最年少ロン・ウッドでさえ74歳だ。それでも時折会員制交流サイト(SNS)に登場する姿は、全く年齢を感じさせない伊達(だて)男ぶり。そこら辺の〝ちょい悪親父(おやじ)〟は尻尾を巻いて逃げ出すだろう▼それにしても、このメンバーたちの健在ぶりは奇跡だ。若い頃、酒やドラッグに溺れていたのは有名な話。73年の初来日は、過去の大麻所持を理由に外務省が入国を拒否して幻となった▼そんな過去があるからこそ、今の元気な姿や円熟の演奏がまぶしい。「人生100年時代」のたとえにしたら、格好悪いからやめてくれと大目玉を食らうだろう。ならば米国式の「転石」を胸にイカした爺(じじい)を目指してみるか。(示)(山陰中央新報デジタル・2021/07/20)

○ ローリング・ストーンズ=英国のロック・グループ。マディ・ウォーターズの曲から命名された。ミック・ジャガーMick Jagger〔1943- 〕,ブライアン・ジョーンズBrian Jones〔1942-1969〕,キース・リチャーズKeith Richards〔1943- 〕,ビル・ワイマンBill Wyman〔1936- 〕,チャーリー・ワッツCharlie Watts〔1941- 〕の5人で1963年結成。以後《サティスファクション》(1965年),《ジャンピング・ジャック・フラッシュ》(1968年)等数多くのヒット曲を発表し,ロック界に君臨した。以後も一部メンバーを替えながら一貫したロックンロール・スタイルを通し続けている。(マイペディア)

○ 転石苔を生ぜず=引っ越しや転職を繰り返す者は、財産や地位が得られないというたとえ。また、逆に、積極的に活動の場を変えていく者は常に清新でいられることのたとえ。[解説] 古くから使われてきた西洋のことわざの翻訳で、日本では、英語教育のなかで大正期に定訳となったものと推定されます。相反する二つの解釈があるのは、それぞれ保守的なイギリスと転職や転居を肯定的に評価するアメリカの主な意味・用法を反映したもので、日本でも近年はその相違がしだいに認識されるようになっています。〔英語〕A rolling stone gathers no moss.(ことわざを知る辞典)

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 まことに悔しいことですけれど、ぼくには「ロック」への理解というか、関心がまったくありません。いろいろと工夫をしながら、それらを聞こうと試みたのですが、ダメでした。なぜだろうか、と真剣に考えたこともありました。答えは単純で、ロックの波長がぼくにはまったく合わなかった、たったそれだけです。好き嫌いの問題であって、はっきり言うと、ロックが好きにはなら(なれ)なかった。熱唱というか熱演というのも、ぼくは好まないんですね。この後、何かの拍子に「お前が好きだ!」とならないか、まずありえないですね。ジャズは結構聞いてきました。ジャズボーカルも若いころから(兄貴の感化で)聞くようにしてきました。おそらく、兄はロックには興味を示さなかっただろうし、その影響をぼくも受けているのだろうと、かなり時間が経ってから思い当たった。ロックを耳にする環境になかっただけで、それ以外の要素はない。

 しかしロックバンドの名前は知っていました。このローリング・ストーンズは、早くから耳にしていた。特に、ミック・ジャガーは何かと物議をかもしてきましたから、ゴシップ記事としても知ることになりました。このバンドに関して、なによりもある一人の女性を思い出します。その人は「教職」を願っていたのでしたが、何度も採用試験に挑戦しながら、はじきかえされていた。おそらく三十年も前の出来事でした。当時は採用試験の倍率は高く、なかなか難関だったのです。彼女は五回も六回も挑戦を続けていたようでした。不思議なことに、彼女は採用試験には合格していた。しかし、採用はなかったのです。ぼくには、はたして教師としてどうだろうか、そんな一抹の不安というか、心配はありました。それはぼくの勘違いであったかもしれませんが、とにかく「声が小さい」、まるで蚊が泣くようなといいたいくらいに小声しか出なかった。(ぼくの知らないところでは、大音声を出しておられたかもしれない)

 何かのきっかけで、彼女、Aさんは「わたしは、ミックの追っかけをしています」と言われた。先日、イギリスへ行ってきました、と。よく理解できなかったので、さらに聞いてみると「R.S.」の大ファンだった。ぼくは驚嘆しました。ある時、街中で出会ったとき、なんとAさんはバイクにまたがって、アルバイトに出かけるとか言っていた。ヘルメットをかぶり、バイクに乗って「ミックの追っかけ」と、話の筋が通ったのでした。そのことがあってしばらくして、ある年の四月に、電話があった。「採用試験に合格して採用され、明日から●●中学校に赴任します」という。よく聞いてみると、新学期開始の直後に、クラスに転校生が登校してきたので、二クラスが三クラスに編成替えになり、急遽担任(一人)が必要になり、Aさんに白羽の矢が立ったというのでした。

 彼女は元気いっぱいでした。よかったなと思いながら、でも一抹の不安、それが消えませんでした。「ヘルメットにバイクに、ミックの追っかけ」であるにしては、声量が貧弱というか、やはり「蚊が泣く」のでした。でも、いずれ馴れるかも、と思いながら、時間が経過した。記憶があいまいですが、二学期が始まる頃だったか、「教職を辞めました」という連絡があった。「やっぱりそうだったか」と思いもしましたが、理由は聞かなかった。Aさんは「これでケジメがつけられます」とさばさばしたように言われた。そして、「来週からアメリカに行きます」というのです。またどうして。「ミックです」その嬉しそうな声を聞いて、ぼくは、人には向き不向きがあり、誰だって、それを悟るのは自分しかいないと、改めて思い知らされました。「あなたは、声が難点だから、じゅうぶんに留意する方がいいですね」と、ついには言わなかった。言った方がよかったのか、それとも、…。それがぼくの他者への接し方でした。

 その後、彼女がどうしたか、ぼくは知らない。「ミックと結婚した」というニュースも流れてこないから、きっと元気に「ヘルメット・バイク・ミック」の三点主義にこだわり続けておられるのかと、懐かしさを伴いつつ、その健康を祈っているのです。たしか、齢五十を超えておられるでしょう。素敵な中年かな?おそらく何百人にも及ぶ人たちと、それなりに長く丁寧に(と心がけて)付き合ってきたのでした。それぞれの一人一人については「ヘルメット・バイク・ミック」に類する想い出があります。自分は歳ばかり取りながら、若い時の、若い人との出会いに思いがが及ぶというのも、何かの兆候でしょうか。

 蚊の鳴くような音声(おんじょう)の持ち主でありつつ、ガンガンキンキンのR.S.を追っかけていた彼女。ミックたちの魅力は「男ではわからんのか」などという陳腐な判断をしたくなりながら、いや違う、ぼくには彼らの魅力を受け止める感覚器官がなかったんだと、気を取り直したりしているのです。そのくせ、ぼくは、亡くなってからのマイケルジャクソン(の残された記録)を、遅まきながらほとんどすべて聴いて観てしまうほどに、彼の才能に大きな刺激を受けたのです。とにかく、若い時以来、クラシックと流行歌という、交わる筈もなさそうな異類たちにイカレていたのは、なんとも恥ずかしい限りです。

 「転石苔むさず」という表現で、ぼくはこの語を覚えていました。それが示す内容を肯定するも否定するも、自在にどうぞ。それにしても、一つのグループが半世紀以上にわたって活動をつづけるというのは、壮挙であり快挙でもあるでしょう。(そういえば、ぼくのところにいた子どもたちが、小学生時代にイカレた「アルフィー」も、もう古希を過ぎたか、いや、そこまではという具合で、彼等も小学校以来の付き合いだそうです)この島にもロックグループはいくつもありましたが、どれがどこまで続いたのか、ぼくにはわかりません。まったくの当て推量だし、無責任な放言ですが、この島のグループには、いずれにしても、どこか「四畳半」的な雰囲気がありました。爆発的・攻撃的な印象は薄かった。もちろん、おしなべてという、独断的評価です。それに対して、西欧のグループは大きな野外劇場型、大音量で汗をかく、そんな印象があります。これはクラシックについても言えそうです。中から外にはじき出される、そんな感じをぼくは持ちました。それに対して、畳に襖では、どうなんでしょうねえ、なんか三味線が似合いそう。それもまた「乙」なんでしょうがね。

 六十年を超えて、なお活動を続けている「転石」、さすがに彼らの表情には「苔がむしている」と言えば失礼になりますね、実に豊かな年輪のような皺が刻み込まれています。これもまた、一つの「勲章」なのかもしれない。それにしても、イギリスというのは、なかなか特異な存在がひしめいている島社会ですね、現首相といい、王室の面々といい。かつての「大英帝国」の遺産なのか、残照なのか。それならば、昔日の一方の身の程知らずに、東亜共栄圏を夢見た(夢とはいえ、実に間違いだった)「似非帝国」もまた、「夢よもう一度」と、獲物を狙っているのか。あるいは足掻いているのでしょうか、何を求めてか。汗をかきますねえ。

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