
【小社会】 メーデーの連帯 きょうはメーデー。労働者の祭典だが、欧州には昔から春の祭りとしてのメーデーがあった。少女に花の冠をかぶらせ、歌い踊る五月祭。この日、娘たちが野や森に出て朝露で顔を洗うと、よい花婿に巡り合えるともいう。▽メーデーのルーツは朗らかだ。本紙連載「美しき座標」を思い出した。四万十市出身の幸徳秋水と仲間のヒューマニズムに徹した活動を描く。第1部のテーマは平民新聞の創刊1周年を記念した1904(明治37)年の園遊会だった。▽紅葉の名所に読者を招き、飲食の出店や有志の余興で懇親しようというだけの無邪気な会。それなのに警察は開催を禁じ、その後に平民社で開かれた小さな集会も解散させている。このしつこさの理由は何だろう。▽当時、世の中の富は政商ら一部に集中し、貧富の格差は広がっていた。当局が恐れたのは、園遊会に集まる労働者らの団結と連帯だったのかもしれない。そう考えると、日本のメーデーのルーツのようにも思えてくる。▽新型コロナウイルス感染拡大による解雇、雇い止めが10万人を超えた。仕事が半分以上減り、休業手当も受け取れない実質的失業者も約150万人に上る。窮地に立たされた働く人に寄り添う施策が、今ほど求められる時はない。▽変異株による感染が急速に広がり、医療従事者たちの負担が増している。私たちが感染抑止の行動を続けることも、コロナ下の連帯の示し方である。(高知新聞・2012/05/01)

メーデーに纏わる記憶と言っても取り立ててあるわけでもありません。ほんの瞬間でしたが、小さな組織の(名前だけの)代表をやったこともあって、何年間かは中央メーデーの会場(東京都内)に向けてデモ行進をした経験があります。もちろん、シュプレヒコールなども一人前に声を上げて、運動の目標を確認したりしました。今でもメーデーは続いていますが、これはなにかを訴えるための運動というよりは、「働く者の祭典」ともいわれるように、ある種の「お祭り」であり、連帯の確認という趣が強かったように思います。政党の代表者と懇談したり、他の組織の幹部連とも話合ったりしたことをかすかに記憶にとどめている程度です。ぼくも労働者だったことがあるのです。

五月一日、本年の「八十八夜」と言う。「夏も近づく八十八夜 ♫」と、威勢のいい、元気いっぱいの唱歌を歌ったのも微かな記憶の彼方に消えかかっています。また、五月五日は立夏、「端午の節句」でもあります。拙宅の近所でも「鯉のぼり」を空に泳がせている家々が何軒かあります。男の節句というのは、家制度の下にあっては、今日では想像もできないような「大事な記念日(跡取り承認記念日)」だったと思われます。先日この雑文で書いた近所の家では「正和」と大書した幟が、大振りな鯉のぼりとは別の竿で勢いよく靡いています。いかにも男の子の成長に願をかけているなあという風情を強く感じてきます。

同じように男の子として産まれてじゅうぶんに育てられずに命脈を断たれる子どもが後を絶たないという不幸の際限のなさに、まるでわが子の不憫を託つが如くに痛ましく思われても来ます。年中行事である「節句」は、かろうじて昔日の意味合いを維持しているようだとは言うものの、はるかにその重みが消えてしまっています。だから、五月の「節句」は、いろいろな意味で子ども(男子に限らない)の幸福を祈ると同時に、不幸にも生きながらえられなかった、あの子この子に向ける手向けの祈りの機会でもあるのです。
○ たんご【端午】=中国にはじまり,朝鮮,日本でも行われる旧暦5月5日の節供。蒲節,端節,浴蘭節などともいう。〈端〉は〈初〉の意味で,元来は月の最初の午の日をいった。十二支の寅を正月とする夏暦では,5月は午の月にあたり,〈午〉が〈五〉に通じることや陽数の重なりを重んじたことなどから,3世紀,魏・晋以後,5月5日をとくに〈重五〉〈重午〉〈端陽〉などと呼び,この日に各種の祭礼を行うようになった。旧暦5月は高温多湿の盛夏であり,伝染病や害虫の害がはなはだしく,悪月とされた。(世界大百科事典第二版)
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本日もまた「浮遊」する。いや、「飛躍」というべきか。脈絡がないという意味です。乞う、お許しを。
地に根を下ろしてというのは、ぼくのよくするところではありません。いつでも、ここ(この世)が「仮の住まい」という実感があります。だから、仮は「終」でもあるのであり、それこそが人間存在の仕方だと言いたいくらいです。悠揚迫らず「大業」を為すということは、ぼくには夢にも考えられない生活でした。「人間の分際」、このことをいつだって忘れたことがないとはっきりといえます。その言わんとするところは、一口に「人間」と言っても、似たようなものじゃありませんか、ということ。小田実さんだったかにならって、「ちょぼちょぼ」であるといいたいですね。「ちょぼちょぼ」「ぼちぼち」「どっこいどっこい」が自分に関しては認められない人だけが足掻くんじゃないですか。「悪足掻き」とは言いませんけれども、齷齪することには変わりはないようです。何事によらず、ぼくは齷齪することが大嫌いでした。いつだって、できるかぎり「ノンビリ」したい人間でした。もちろん、今でもそうです。この辺はかなり大まかな話ですけど、「分際」を忘れない限り、ぼくは大きな過ちを犯さないと、つねに自己暗示をかけてきたんでしょうね。

「浮遊する駄文」はまた、芭蕉さんに帰ります。「月日は百代の過客」と言ったのは、島の俳人松尾芭蕉でした。その「奥の細道」の出発地は中国の盛唐時代にあったのです。何時までも歩き続けて、留まるところを知らない旅人のように、「月日は永遠の旅人」であると中国の詩人もとらえていた。そう、李白です。ぼくは漢文は得意ではありませんが、いくつかの詩は、昔から好んでいました。よく意味も読みもわからないなりに、自己流に読んでは、ああいいなあ、と一人合点してきたのです。芭蕉が拝借した「百代の過客」は、この李白の「春夜宴桃李園序」という詩から借りてきたものです。以下、その原文の初めの部分を示しておきます。解釈はご随意に。
夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客。 而浮生若夢、為歓幾何。 古人秉燭夜遊、良有以也。 況陽春召我以煙景、大塊仮我以文章。(以下略)
天地、即ちこの宇宙は万物を迎え入れる「宿」である。「逆旅」というのは「出迎える」の意ですから、そこから旅人を泊めるところ、つまりは旅館というわけです。人間はどこに行っても泊まる場所には事欠かない、光陰、即ち時間(月日)は、いつまでも歩き続ける旅人のようでもあります。「浮生」は人生のはかなさを表わすもので、「憂き世」でもあり「浮世」でもありますね。あまりにも短い人生で、いったいどれほど楽しむときがあるのでしょうか。古人は蝋燭を灯して夜も遊んだという。理由のあることではないか。まして陽春が霞の景色のなかで自分を招く。天主は自分(李白)に文才を仮託したのだから、(それで楽しみを表現したいのです)とまあ、適当に過ぎる解釈(にもなりません)をこじつけました。要するに、「 光陰者百代之過客」という人生観は海を隔て、時代を違えた詩人同士に共有されてきたと言いたいのです。何時までも終わらない旅であり、あっという間の束の間でもある人生。
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○ 李白(りはく)Li Bo=[生]長安1(701)[没]宝応1(762).当塗 中国,盛唐の詩人。字,太白。号,青蓮居士。若い頃は任侠を好み,四川を振出しに,江南,山東,山西を遊歴。 42歳のとき長安に出て賀知章らに推挙されて翰林供奉 (ぐぶ) となったが,高力士に憎まれてまもなく追われ,また放浪生活に入り,その間,杜甫とともに旅をしたこともある。のち安禄山の乱のとき永王の軍に加わったため夜郎 (貴州省) に流されることになり,途中で大赦にあい,また各地を往来するうちに安徽省で死んだ。杜甫とともに中国最高の詩人として「李杜」と並称され,杜甫が「詩聖」と呼ばれるのに対して「詩仙」と呼ばれる。絶句と楽府 (がふ) を最も得意とし,自由奔放で豪快な盛唐の詩風を代表する。詩文集『李太白集』がある。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説)
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広大な中国各地に漂泊の生活を送ったとするなら、李白もまた「ノマド」ともいえるような人生の旅人であったといいたくなるのです。そして、この中国大陸は遥かな昔から、今に至るまで「遊牧民」の根拠地であり、「ノマド」のような移動する漂泊の人生に最も適した地として、ぼくたちはある種の憧憬を以て眺めてきたのです。果たして、一人の人生は「シルクロード」ばかりを歩くのをよしとしてきたのかどうか。「泥濘もまた、大いなる人生」だという感覚をぼくは持っているのです。その地からは、どれだけでも学べるものがある、ある種の生き方の流儀の宝庫ともなったのです。この小さな島がここまで存続してきた一番の理由は、この大陸に接近していたということです。

さて、時は「皐月朔日」です。まことに「月日は百代の過客」であります。この皐月の空には、その昔は「鯉のぼり」が空高く鎬(しのぎ)を削っていたことでしょう。よく「江戸っ子は五月の鯉の吹流し」などと言い、「心がさっぱりとしていてわだかまりのないこと。また、口先だけで胆力のないこと」(デジタル大辞泉)の事例として使われていました。果たして、ぼくは江戸っ子ではありませんから、この言い草は当たらないかと言えば、どっこい、腹に一物、背に荷物と言うように、余計なものに縛られているにもかかわらず、文字通り「胆力」はまったくの空無です。今からではあまりにも遅いけど、「胆力」の臭いだけでも嗅いでみたいと願掛けをした、皐月朔日ではありました。(この項、時期は未定ですが、続く予定です)
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