唯一の被爆国、「核の傘」に隠れる無稽荒唐

 ムーミン谷の願い 

 原子爆弾が投下された夏、フィンランドの作家トーベ・ヤンソンはちょうど「ムーミン谷の彗星(すいせい)」を執筆していた。自身の戦争体験をモチーフに考えていたが、スイッチ一つで多くの人生が完全に破壊される怖さを物語に取り込んだ。児童書としては異例のことだ(「ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン」河出書房新社)▼彗星の接近でムーミン谷の平和は一変する。山は揺れ、海は干上がり、大地が裂ける。爆音が響き、燃え上がる世界の様子は、原爆による破壊の脅威の表現にほかならない▼二度と悲劇を繰り返さない。非人道的兵器の廃絶を目指す核兵器禁止条約の批准国・地域が50に達した。来年1月22日に発効する。容易ではないが、核保有国に軍縮を迫り、使用を困難にする効果はあるだろう▼注目されるのが、唯一の戦争被爆国日本の対応である。安全保障を米国の「核の傘」に頼ることから、政府は不参加の立場を崩していない。保有国と非保有国の橋渡し役を担うというが、腰は重いようだ▼日本のテレビアニメ「ムーミン」だが、実は初期の作品は海外での配給を禁じられた。体罰などの描写が「ムーミン谷」の哲学に反したのが理由で、トーベ・ヤンソンが失望したからだ▼「空、太陽と山が残っている。そして海が」。彗星禍を生き延びたムーミンの言葉だ。かの谷の住人の目に、きょうの世界はどう映っているだろう。(北海道新聞「卓上四季」2020・10・28)

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 1939年、戦争の冬のことです。仕事はぱたりといきづまり、絵をかこうとしてもしかたがないと感じていました。
『むかしむかし、あるところに』という出だしではじまる物語を書こうと思ったのも、むりのないことかもしれません。でも、王子さまや、王女さまや、小さな子どもたちを登場させることはやめて、そのかわりに、風刺まんがをかくときサインがわりにつかっていた、怒った顔をしたいきものを主人公にして、ムーミントロールという名前をつけました。
 とちゅうまで書いた物語は、1945年になるまで、そのままほったらかしになっていました。ところが、ある友だちがこう言ったのです。これは子どもの本になるかもしれない。書きあげて、さし絵をつければ、出版できるかもしれないよ、と。
 頭をひねったあげく、本のタイトルは、「パパをさがすムーミントロール」――――――「キャプテン・グラント」の探求物語がモデル――――――のようなものにしたかったのですが、出版社は「小さなトロール」を入れたほうがいいと言いました。そのほうが読者にわかりやすいというのです。
 この物語は、わたしが読んで好きだった、子どもの本の影響をうけています。たとえばジュール・ヴェルヌやコローディ(青い髪の少女)などが、ちょっぴりずつ入っています。でも、それがいけないということはありませんよね?
 とにかく、これはわたしがはじめて書いた、ハッピーエンドのお話なのです!

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トーベ・ヤンソン  冨原眞弓訳
(講談社ムーミン童話全集『小さなトロールと大きな洪水』 作者序文より)(https://www.moomin.co.jp/tove)

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 大学生になってからも、ぼくは「ムーミン」に魅かれ続けました。主にアニメでしたが、絵本もたくさん読んだ記憶があります。子どもたちといっしょに読んだと思う。トーベ・ヤンソンという人は何人分もの仕事を成し遂げた芸術家だった。「ムーミン」物語誕生の由来、さまざまな経過を経て晩年に至るまで、彼女はみずからの戦争体験を生の根底に据えていたように思われます。静かなたたずまいの中に、遠くを見つめるよう眼差しをいつも、ぼくは感じたものでした。

 来年一月に「核兵器禁止条約」が発効する段階に来ました。「唯一の被爆国」という看板をいつも政治的に利用してきた政治が、今回も前例にたがわず、「アメリカの意向」を受けて批准しない理由を騙らない。腐敗しているというほかありません。やがて「懇願して仲間に」という進み具合になるはずです。政治権力者はアメリカと心中するつもりでしょうが、一人の大衆、一人の国民として、ぼくは断じて認められない。恥ずかしい限りです。何度も言いますが、あまりかがこの島を守るということはあり得ないこと、自らの利益にならないなら、即座に寝返ります。悪しき前例の枚挙にいとまなし、です。自己利益になるなら、どんな犠牲も払う、でもいつでも理屈をつけて投げ出す「勇気」だけもっている。

 「唯一の被爆国」と「核の傘」、なんという取り合わせか。原爆を投下され、数知れぬ無辜の民のいのちが奪われた、その当事国が差し出す「傘」に身を寄せるのですが、それには「黒い雨」も「核の灰」も降り注ぐはず。借り傘を求めたところで、被爆は免れないことを忘れているのか、忘れた振りをしているのか。2050年にはCO2排出ゼロ、原発はさらに継続利用という、不謹慎かつ荒唐無稽でありつつ、放射能汚染水を海洋投棄というでたらめ。恥ずかしいという以上に、この国にいること自体が犯罪だと、ぼくには思われてくるのです。「永遠の旅人」スナフキンを、ぼくはこよなく愛しています。

(核兵器禁止条約の批准50カ国・地域到達を祝う集会に集まった人たち。後方は原爆ドーム=25日午後、広島市で)(同下)

 「【ニューヨーク=杉藤貴浩】国連は24日(日本時間25日)、核兵器の保有や使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約が、発効に必要な50カ国・地域の批准に達したと発表した。90日後の来年1月22日、史上初めて核兵器を非人道的で違法とする国際条約が発効する。不参加の日本は唯一の戦争被爆国として核廃絶に向けた姿勢を厳しく問われそうだ。 24日に批准したのは中央アメリカのホンジュラス。国連は「批准した国を称賛し、交渉の促進に尽力してきた市民の活動に敬意を表する。条約発効は核爆発と核実験の生存者への賛辞となる」とするグテレス事務総長の談話を出した。」(東京新聞・2020年10月25日)

「加藤官房長官は、核廃絶というゴールは共有しているとしたうえで、安全保障上の脅威に適切に対処しながら、核軍縮を前進させる日本のアプローチとは異なるとして、署名は行わない考えを改めて示しました。」(N+K・2020年10月26日 18時20分) 「笑止千万」であり、「盗人に三分の理」にもならない、不真面目専一の虚妄です。米国はこの島を守備する気はさらさらありません。過去の数多の事例が証明済み。

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