
事件から半年以上経った今も、テイラーの死を悼む人は絶えない Bryan Woolston-REUTERS
寝室に踏み込んだ警官3人が黒人女性を撃ち殺しても、誰も殺人罪に問われない不正義 Officer Involved in Breonna Taylor Shooting Not Charged in Her Death 2020年9月24日(木)17時20分 エミリー・チャコール <公正な裁きを求める市民の声に押され、大陪審は「無謀な危険行為」の容疑での起訴を決定> 救急救命士として働く26歳の黒人女性ブレオナ・テイラーがケンタッキー州ルイビルの自宅アパートで恋人と就寝中、「ノックなし」の家宅捜査を認める令状を持った警官が部屋に踏み込み、恋人と警官の撃ち合いのなかでテイラーが死亡する悲劇が起きたのは今年3月。それから半年余り経った今、家宅捜査に加わった元警官のブレット・ハンキソンは殺人罪ではなく、第1級の「無謀な危険行為」で起訴されることになった。/ アメリカの司法制度では、検察ではなく、一般市民の陪審員で構成される大陪審が、容疑者を刑事訴追するかどうかを審査する。ジェファーソン郡大陪審はハンキンソンを訴追するに足る十分な証拠があるとして、9月23日午後、起訴状を提示した。ただしそれはテイラーを撃ったからではなく、ハンキンソンの撃った弾の何発かが壁を貫通して隣室に達していたからだという。(以下略)(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/09/post-94521.php)
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テイラー事件から半年が経過しています。その後、全米各地で同様の事件が頻発してきました。この事態をどのようにとらえればいいのか、ぼくにはアメリカが根底において、「黒人差別」を厳存させてきたこと、それがアメリカの文化(というものがあるなら)の根拠になっているというほかないようにさえ思われてきます。どこかで触れましたが、その昔の大統領選挙である候補者が「アメリカから黒人差別がなくなったら、それはアメリカでなくなることだ」という趣旨のことを叫んだことがありました。黒人が大統領になっても事態は少しも変わらないどころか、かえって反動をよんでしまっているのが、現下の信じられない状況だといえます。
人種差別、女性蔑視を信条とする大統領が選ばれる国だといえば、それまでですが、それに対してかつて見られなかったほどの抗議運動、人権死守のための運動が、これもまた全米で根強く続いています。人権問題も民主主義も「多数決」ではないことをアメリカは示さなければならないし、示すべきであると、遠くにいるぼくは心を寄せながら念じています。(今はアファーマティブアクションの効力さえ疑われています。「公民権法」はどうなってしまったのでしょう。最後は、「良心」「誠実」というものがものをいうのですね。一歩先に進むというのは、未曽有の出来事です。あるいは進退をくりかえしながら、ようやく五ミリしか進まないのか。途方に暮れるような、緩慢きわまりない歩みを人類は続けています。その道はまた、民主主義(democracy)の道でもあるのです。

● アファーマティブアクション(affirmative action)差別や不利益を被ってきたマイノリティーの、職業、教育上の差別撤廃措置。具体的には、入学者数、雇用者数に受け入れ枠や目標値を定めて、白人男性が歴史的に圧倒的多数派を形成してきた領域での、黒人、ヒスパニック、女性などの就学、雇用の機会を保証しようとする。最も典型的なのが裁判所の命令により、生徒を隣接地域へバスで強制的に通学させるバッシングで、公民権法などにより禁じられた後にも根強く残存する差別の除去には、一定の効果を収めた。だが、リバース・ディスクリミネーション(逆差別)につながるとする白人たちの反発、巻き返し(ホワイト・バックラッシュ)は、人種別割当制度の是非、公民権法案の修正などをめぐる差別・逆差別論議を呼び、共和党は機械的な差別解消策はかえって「機会均等」を妨げるとして撤廃を主張。とりわけ黒人に対する優遇措置に逆差別感情を抱く者の割合が年を追って増え、非白人層にまで及んでいる現実を踏まえて、クリントン政権は1995年7月、制度継続と部分的改善の必要性を主張。経済的困窮度の高い人を優先するなど制度の公正な適用を求めると共に、機械的な割当制の撤廃を提唱した。ブッシュ大統領は、ミシガン大学が割当制に基づき、少数者優遇措置で黒人学生などを優先入学させることを、不公正な仕組みで憲法違反だと批判。2003年1月、連邦最高裁判所に意見書を提出した。同最高裁は同年6月、適用や運用の範囲を限定しつつ、措置そのものは合憲と決定を下した。(知恵蔵の解説)

●公民権法(Civil Rights Act )人種・民族,皮膚の色,宗教,あるいは出身国を理由とする差別を終わらせることを意図し,1964年に制定されたアメリカ合衆国の包括的な法律。アメリカの公民権にかかわる,連邦再建(→再建法)以来最も重要な法と位置づけられる。第1編では,社会における少数者や社会的・経済的弱者に対する不公正な登録要件や手続きを排除することにより,平等な投票権を保障している。第2編では公共施設での分離または差別を禁止している。第7編では,労働組合や教育機関における差別,州際通商や連邦政府との商取引を行なう事業者の雇用差別を禁じている。雇用については性差別も規定し,その条項を履行する政府機関として雇用機会均等委員会 EEOCを設立した。このほか,公立学校における差別撤廃を要請し(第4編),公民権委員会 CRCの職務を拡大し(第5編),連邦政府後援事業での資金分配における無差別を保証した(第6編)。1963年にジョン・F.ケネディ大統領が提案,その後任のリンドン・B.ジョンソン大統領の肝いりでより強化された法案が連邦議会上院での歴史に残る長期にわたる審議を経て可決され,1964年7月2日にジョンソン大統領が署名した。黒人との融和に反対する白人団体の反発は強く,抗議行動や黒人への暴力行為も発生した。ただちにこの法律の合憲性が問われたが,試験的訴訟として起こされたハート・オブ・アトランタ・モーテル(ジョージア州アトランタのモーテルの名称)対合衆国裁判(1964)でアメリカ合衆国連邦最高裁判所は合憲判断をくだした。公民権法により,雇用,投票,公共施設の利用における人種差別を防ぐ権限が法執行機関に付与された。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説)
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