
旅人かへらず 西脇順三郎 旅人は待てよ このかすかな泉に 舌を濡らす前に 考へよ人生の旅人 汝もまた岩間からしみ出た 水霊にすぎない この考へる水も永劫には流れない 永劫の或時にひからびる ああかけすが鳴いてやかましい 時々この水の中から 花をかざした幻影の人が出る 永遠の生命を求めるは夢 流れ去る生命のせせらぎに 思ひを捨て遂に 永劫の断崖より落ちて 消え失せんと望むはうつつ さう言ふはこの幻影の河童 村や町へ水から出て遊びに来る 浮雲の影に水草ののびる頃


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何時のころからか、西脇順三郎を読む癖がついた。中味はよくわからなかった。その癖も理解力も、今も同じままである。難解と言えば、どんな詩も(文章も)難しい。だから、ぼくたちはわかったつもりになったり、わかったふりをするのだろう。この「旅人かへらず」の詩の内容は戦争中のこととされる。ならば、そこに厭戦や反戦の気分を嗅いでも間違いはなかろうし、けっして好戦的ではなかったことも事実だ。同じ時期、同じ勤め先に折口信夫(釈超空)もいたはず。折口さんは民族主義者であるといえば非難されそうだが、ナショナリストだったことは確かだろう。その対比で西脇さんを考えてみたい気もするのである。大学に余裕のあった時代の一風景といえよう。
「考へよ人生の旅人」「永遠の生命を求めるは夢」、かくいう「幻影の河童」とは誰のことだろう。
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