筆洗 英国人の看護師イーディス・キャベルが銃殺されたのは、第一次世界大戦のさなか、一九一五年の十月だった。ドイツ占領下のベルギーで、彼女は敵味方分け隔てなく献身的に手当てをした▼傷ついた英仏の兵士をかくまい、中立国に逃れるのを助けた。ドイツ軍は彼女を捕らえ、軍法会議で死刑を言い渡した。キャベルは処刑の前夜、自分が祖国のために喜んで命を捧(ささ)げることを、親しい人たちに伝えてほしいと、静かな口調で牧師に語った▼そして続けた。「けれど、私は申し上げたいのです…愛国心だけでは不十分なのだと、つくづく分かりました。誰に対しても、憎しみも恨みも持ってはいけないのです」▼自分が育った土地と人々に絆を感じ、守ろうとするのは、自然な感情だろう。しかし、その心に他の国や民族への憎しみや恨みが交じった時、政治がそれを巧みに利用する時、愛国心が危険な力を放つことは、歴史が教えてくれる▼国民の知る権利を損なう特定秘密保護法を成立させたと思ったら、今度は外交・防衛の基本指針・国家安全保障戦略に「愛国心」を盛り込むという。国の大事は知らなくてもいいと言いながら、国を愛せと言う。随分と、政府に都合のいい国民をご所望のようだ▼政府が「愛国心」と言う時は、よくよく吟味した方がいい。実は「政府を愛する心」を求めているだけかもしれない。(東京新聞・13/12/13)


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おそらく三十年以上も、ぼくは「看護教育」にかかわってきました。というと聞こえはいいけど、先輩に依頼されて、断り切れず、ズルズルとやり過ごしただけでした。教育や歴史や文化という視点をもちながら、よもやまの話で脱線をくりかえしてきました。その間に、キャベルのことは気になっていました。じゅうぶんに学習していなかったので曖昧にしか話せませんでした。いつの日にか、ていねいに彼女の生き方をたどりたいと考えていた。人間には、ぼくなどのような愚図には計り知れない高い理想と高潔な生活信条を堅持して生きておられる(おられた)人がいますが、さしずめ彼女などはその典型でしょう。マザーテレサの「マザー」のようでもあります。そういう人から見れば、戦争も暴動もなく、I can’t stop while there are lives to be saved.ということだけがあった。それこそが使命(mission)になっていたのですね。
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