
大弦小弦 先日、行きつけの飲み屋で隣り合った初対面の老紳士と基地問題で議論になった。老紳士は「沖縄は基地で大変だけど、場所的に仕方ない」と語り始め、「基地がないと生活できないでしょう」と繰り返した▼基地経済の縮小や新基地建設に反対する県民世論を説明すると、「君たちは日本人ではない」と吐き捨てた。ふさいだまま帰宅し、詩人山之口貘が自作を朗読するCDを聴きながら、寝床についた▼冒頭は「会話」。「お国は? と女が言つた」と始まる同作には「あれは日本人ではない/日本語は通じるかなどと話し合ひながら」とあり、「世間の偏見達が眺めるあの僕の国か!」とつづられる▼「新編山之口貘全集」(思潮社)に収録された「沖縄よどこへ行く」はサンフランシスコ講和条約調印直前に書かれ、「琉球よ/沖縄よ/こんどはどこに行くというのだ」と問いかけている▼生誕110年、没後50年を記念し、38年ぶりに発刊された全集を編集した松下博文・筑紫女学園大学教授は、9月10日の本紙文化面でこの作品をディアスポラな存在(さまよえる民)としての沖縄の今を象徴していると指摘している▼貘が生きた時代と比べても、日本と沖縄の関係は大きくは変わっていない。アイデンティティーを問い、苦悩して生まれた詩に共鳴する。(与那原良彦)(沖縄タイムス・13/10/05)
会 話 お国は?と女が言った。 さて、僕の国はどこなんだか、とにかく僕は煙草に火をつけるんだが、 刺青と蛇皮線などの連想を染めて、 図案のような風俗をしているあの僕の国か! ずっとむかふ ずっとむかふとは?と女が言った。 それはずっとむかふ、日本列島の南端の一寸手前なんだが、 頭上に豚をのせる女がいるとか素足で歩くとかいふような、 憂鬱な方角を習慣しているあの僕の国か! 南方 南方とは?と女が言った。 南方は南方、濃藍の海に住んでいるあの常夏の地帯、 竜舌蘭と梯梧と阿旦とパパイヤなどの植物たちが、 白い季節を被って寄り添ふているんだが、 あれは日本人ではないとか日本語は通じるかなどと 談し合ひしながら、世間との既成概念達が気流するあの僕の国か! 亜熱帯 アネッツタイ!と女が言った 亜熱帯なんだが、僕の女よ、目の前に見える亜熱帯が見えないのか! この僕のように、日本語の通じる日本人たちが、すなわち亜熱帯に生まれた僕らなんだと 僕はおもふんだが、酋長だの土人だの唐手だの泡盛だのの同義語でも眺めるかのように、 世間の偏見達が眺めるあの僕の国か! 赤道直下のあの近所

鮪と鰯 鮪の刺身を食いたくなったと 人間みたいなことを女房が言った 言われてみるとついぼくも人間めいて 鮪の刺身を夢みかけるのだが 死んでもよければ勝手に食えと ぼくは腹だちまぎれに言ったのだ 女房はぷいと横にむいてしまったのだが 亭主も女房も互いに鮪なのであって 地球の上はみんな鮪なのだ 鮪は原爆を憎み 水爆にはまた脅かされて 腹立まぎれに現代を生きているのだ ある日ぼくは食膳をのぞいて ビキニの灰をかぶっていると言った 女房は箸を逆さに持ちかえると 焦げた鰯のその頭をこづいて 火鉢の灰だとつぶやいたのだ。 ( 第五福竜丸は 1954 年 3 月 1 日、マーシャル諸島ビキニ環礁でアメリカがおこなった水爆実験により被ばくした静岡県焼津港所属の遠洋マグロ延縄漁船です。爆心地より 160 キロ東方の海上で操業中、突如西に閃光を見、地鳴りのような爆発音が船をおそいました。やがて、実験により生じた「死の灰」(放射性降下物)が第五福竜丸に降りそそぎ、乗組員 23 人は全員被ばくしました。 その後、第五福竜丸は放射能がへるのを待って東京水産大学(現・東京海洋大学)の学生の航海の練習船「はやぶさ丸」となりました)(http://d5f.org/about.html)
(やまのぐちばく・1903‐1963=詩人。本名山口重三郎。沖縄生れ。沖縄県立一中中退。1924年上京し,佐藤春夫の知遇を得,《改造》にはじめて詩2編が掲載されるが,以後も職業を転々とし,放浪と貧窮の中で詩作を続けた。金子光晴と親交を結び,草野心平らの詩誌《歴程》に同人として参加。詩集《思弁の苑》《山之口貘詩集》《定本山之口貘詩集》の他数編の小説がある。遺稿詩集《鮪と鰯》)(マイペディア)

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一時期、ぼくは「泡盛」を好んで呑みつづけていたことがあります。理由はいろいろでしたが、口に合うというのが一番でした。よく通った飲み屋の経営者が沖縄出身の人でした。沖縄には知人がたくさんいます。今ではほとんど没交渉になりましたが。山之口貘さんがやっていた、池袋だったかの彼の飲み屋にも顔を出したことがあります。(もちろん、彼はすでに亡くなっていました)
貘さんが懐かしくなったので、紹介しようと思ったのです。それと、最近、エドワード・スノーデンという人のものを読んだり、聞いたりしていて、これまでのアメリカの悪行を少しばかりたどっていたという事情もありました。「沖縄はアメリカだ」「島全体もそうだけど、それ以上に沖縄はアメリカだ」というやりきれない思いが募っていたのも理由の一つでした。どこかで書いてみたいのですが、この「島」は戦後ずっと「アメリカ」の領地でした。島の基本政策を島人だけでは決して決められないという、おぞましい状況を加速させてきたのが歴代の権力者でした。例外的に、アメリカの気に食わない政策や政治をしようとすると必ず潰される。その典型は「田中角栄」「石橋湛山」、少し下って「鳩山由紀夫」等々。政治家も政策も、ともにアメリカに「拉致」「略奪」されているのです。(辺野古基地もイージス武器システムの配置もオスプレイも、すべてはアメリカの一存で決められている、島政府は拒否はできない。金は当方負担だ)

「安保条約」によってこの島が守られている(核の傘とかいうが)そうですが、それは表向きであり、実際は「アメリカのための軍事条約」そのものです。アメリカは(ぼくたちが思っている以上に)暴力的であり野蛮であり、差別的であり、まるで自分以外を「召使」のごとくに扱っているのです。その役割を唯々諾々と、実演しているのが政治家である。「売国」という美しくない言葉をぼくは使うのですが、本当にそうですね。詳細は別の機会に譲りますが、すべて(土地も人も金も)をアメリカ(宗主国)のためにささげているのが「総理大臣」をはじめとする「こくぞくたち」です。悔しいけれど、情けないけれど。ぼくは石橋湛山という人を深く尊敬しているのですが、彼を「公職追放」にしたのがアメリカでした。事実は「吉田」や「岸」がアメリカに「追放」を頼んだからです。以来、すべてはアメリカの命令に従うというのが「国是」(ぼくは「島是」という)となりました。その悪傾向が最も著しいのが現在です。「最長不倒内閣」のように言われますが、アメリカの「おかげ(かいらい)」だったでからしょうね。
だから「貘」さんです。「さて、僕の国はどこなんだか」
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