「好きなことをやんなさい」

 一流企業で役員コースに乗った四十九歳のエリートサラリーマンが、故郷で独り暮らしをしている母親の病気を機に人生を見つめ直し、電車の運転士になりたいという子どもの時の夢を実現させる-▼映画「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」は、ばらばらだった家族の再生物語でもあり、鉄道ファンならずとも見応えがある。ところが、現実にはさらに上を行く人たちがいた▼訓練費七百万円を自己負担しても、運転士になりたいという男性四人が先日、千葉県のいすみ鉄道に契約嘱託社員として採用された。訓練費は四人とも貯金などで工面して、既に一括納付したという▼「小さいころからの夢を実現させたい」と、三十年近く勤めた会社を辞めた男性は家族に反対されたが、最後は「やりたいことをやってください」と理解してくれたという▼房総半島の水田地帯や山あいの木立の中をのんびりと走るこのローカル線は一九八八年、県と沿線の自治体が出資し第三セクターとして開業。それ以来、ずっと赤字が続き、廃線の危機に直面している。四人の夢がかなうよう経営の再建を願うばかりだ▼映画では、運転士への挑戦を決めた主役の中井貴一さんに、母親役の奈良岡朋子さんが病床から語りかける場面がある。「好きなことをやんなさい。それが一番の親孝行」。母の言葉はありがたい。(東京新聞「筆洗」・10/06/06)

 公募運転士、夢へGO! 千葉・いすみ鉄道、4人採用

 千葉県のローカル線「いすみ鉄道」は10日、運転士になるための訓練費700万円を自己負担してもらう条件で公募していた訓練生4人を契約嘱託社員として採用した。4人は1~2年かけ、「夢の運転士」を目指してレールを走り始める。

 自己負担で自社の運転士を養成するのは全国で初めて。4人は千葉、東京、埼玉、広島の40~50代男性。応募時はいずれも会社員で、現時点では会社を辞めた人も辞めていない人もいる。訓練費は4人とも貯金などで工面して、既に一括納付したという。

 10日、本社がある大多喜駅ホームの辞令交付式で、鳥塚亮社長は「皆さんの経験を生かし、地域社会に貢献する姿を見せてほしい」と激励した。/埼玉県志木市の吉井研治さん(51)はインターネットで公募を知り、「小さいころからの夢を実現させたい」と、29年勤めたバイク卸売会社を4月末に退職。妻と3人の子どもは当初反対したが、最後には「やりたいことをやってください」と後押ししてくれた。「小さいころから鉄道や飛行機に乗るのが大好きだった。不安もあるが頑張りたい」と笑顔を見せた。

 4人は9月の学科試験に向け、日曜日ごとに講義を受講。年末には実技試験があり、両試験に合格すると、ディーゼル車の運転に必要な「甲種内燃車運転免許」の国家資格を取得できる。さらに半年ほどかけ、同社の運転士と車両に同乗して訓練を受け、社内試験に合格すれば嘱託運転士になり、週1日以上勤務するという。

 訓練期間中は、県の最低賃金に準じた賃金が同社から4人に支払われる。/いすみ鉄道で働く運転士11人は全員がJRからの出向社員かOB。うち4人は60代と高齢化が進み、保有するディーゼル車6両の運転に必要な国家資格を持つ運転士は減少していた。/経営再建中でもあり、同社は3月、「鉄道ファンに夢を実現してもらえれば」と自己負担を条件に訓練生を公募。千葉と東京で開いた説明会には計24人が参加し、5人が選考試験を受けていた。

 いすみ鉄道=千葉県の房総半島中央部を走るローカル鉄道。大原駅(いすみ市)-上総(かずさ)中野駅(大多喜町)の26・8キロ(14駅)を運行。1988年3月、県と沿線自治体が出資し第3セクターとして開業したが、慢性的な赤字体質で2008年度末の累積赤字は約1億5000万円。社長を公募するなどし経営再建中。(中日新聞・10/05/10)

 この春(4月1日)、いすみ鉄道は開業(国鉄木原線として)90周年を迎えました。苦節も苦節、よくも運行していますなあ、というほどに、苦心惨憺の歴史を重ねてきた鉄道です。たかだか運行距離が27キロ未満でも、住民の足ですから、廃止するわけにもいかずで、まさにいまなお、悪戦苦闘。ぼくは鉄道好きじゃありませんが、この路線だけは別格。山中で出会うとどっきりします。この4人の「転職組」は今も健在のようですが、詳細は未確認です。コロナ禍がすこしでも落ち着いたら(いまの対策じゃおぼつかない)、ゆっくりと出かけてみたいと考えています。

 もうずいぶん昔になりましたが、「鉄道員」(ぽっぽや)という映画(1999年公開)の切符をいただいて鑑賞したことがありました。出演していた女優さん(なんとか涼子)の知り合い(所属事務所の経営者)からいただいたものです。高倉健さん主演。著名な方が出演していたそうですが、記憶にありません。また、映画の印象はいまでは稀薄です。ぼくは映画はからきしだめです。観る力がないのでしょう。(何本もエキストラで出たことがあるんだ、京都時代に)やまのかみにいつでも軽蔑されています。彼女は映画大好き人間でしたから。

 いすみ鉄道は、映画化にドラマ化(NHK BS放送)と大もてぶりですが、現実の営業には陽光が差しません。房総(暴走)半島には「銚子電鉄」「小湊鉄道」と車社会では「無用の長物」(厄介者)化した鉄道路線があります。これは劣島の縮図ですね。痴事さんにひとはたらきを願いたいが、そりゃ無理ですね。

 「菜の花ラインに乗りかえて」は吹石一恵主演。(ときどき、「本田かおりさんはいますか」と乗客に聞かれるという。吹石が演ずる「元国際線客室乗務員」の作中名。リストラにあって、転職したという想定です。のどか(長閑)だし、世間からずれている(ヴァーチャルリアリティ)「乗客」がいいですね。(だから赤字なんだわ)これ以上、余計なことはいわない。ナイナイになりたくナイから)

投稿者:

dogen3

 語るに足る「自分」があるとは思わない。この駄文集積を読んでくだされば、「その程度の人間」なのだと了解されるでしょう。ないものをあるとは言わない、あるものはないとは言わない(つもり)。「正味」「正体」は偽れないという確信は、自分に対しても他人に対しても持ってきたと思う。「あんな人」「こんな人」と思って、外れたことがあまりないと言っておきます。その根拠は、人間というのは賢くもあり愚かでもあるという「度合い」の存在ですから。愚かだけ、賢明だけ、そんな「人品」、これまでどこにもいなかったし、今だっていないと経験から学んできた。どなたにしても、その差は「大同小異」「五十歩百歩」だという直観がありますね、ぼくには。立派な人というのは「困っている人を見過ごしにできない」、そんな惻隠の情に動かされる人ではないですか。この歳になっても、そんな人間に、なりたくて仕方がないのです。本当に憧れますね。(2023/02/03)