親のことなど 気遣う暇に 後で恥じない 自分を生きろ

 もう何十年と行くこともなくまりましたが、都内在住の頃は、季節の草花の便りを手がかりに、足繁く通ったのが向島百花園でした。あるいは、当時の住まいの近くにあった小石川植物園。わざわざ電車を乗り継いで足を伸ばした京王百草園などなど。なかでも向島百花園は、それほど広くはなかったが、たくさんの草花が勢いを得て盛んに茂っていたものでした。ここにも、「吾亦紅」があったし、ぼくが特に好きだった「萩」の見事さには言葉もなかったという記憶があります(右下写真)。今頃は「秋の虫」を鳴かせて、時節の風情を醸し出していることでしょう。移り変わりは世の習いです、百花園が三十花園となっても残っているのかどうか。高層マンションに囲繞され、その足下にできた小さな窪(くぼ)みに隠されてしまっているかもしれません。(この駄文集録では、百花園についてもどこかで触れています)

 積年の出不精が、コロナ禍のせいで、一層ひどくなった。いまでは、その「面影」を偲ぶばかりの「花ごころ」ではあります。聴くともなく、と言うと思わせぶりですが、久しぶりに「吾亦紅」という曲を聴いてみる気になりました。もちろんすぎもとまさとさんのもの。この歌詞には、とても動かされます、いつでも。何十年も耳にすることもありませんでしたが、花便りに誘われて、本当に何十年ぶりかで聴いています。やはり「おふくろ」なんですね。おふくろの痛切な記憶が、ぼくにも刻まれています。この年齢で語るのも気が引けますが、どこまで行っても、いくつになっても、おふくろがぼくの貧相な背中を見ているという、そんな親心に見透かされているのです。熾烈な母親への思慕が銃弾に籠められた出来事が、つい最近ありました。やりきれないほどの「母子の哀情」ではないですか。「いくつになって もあなたの子ども」という、これこそが、「絆」という名の柵(しがらみ)、切り離し得ない縁(えにし)(因縁)ではありますね。

 これを一般的な話にすることができるとは思いません。親の前でも後ろでも、ぼくは一度だっていい子ではなかった。これは誇れることではないが、しかし自分の足でどうにかしてでも歩くという、当たり前の「習い性」をどんなときにも失うまいとして生きてきた。もちろん失敗や間違いはあった、それも数知れず。「あなたに あなたに 謝りたくて」という心持ちは、ぼくの中にも途切れることなく続いています。ぼくは信心のかけらもないと言うべき人間です。しかし、亡き親に対しては、無常の感を深くしながらも、懐古の細々(こまごま)が浮きつ沈みつしながら、一瞬のうちに幼児に立ち返っている始末です。「親のことなど 気遣う暇に 後で恥じない 自分を生きろ あなたの あなたの 形見の言葉」「髪に白髪が 混じり始めても 俺、死ぬまで あなたの子供・・・」

(すぎもとまさと(杉本眞人)「吾亦紅」:https://www.youtube.com/watch?v=ezrjjvb4TKY

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 並みいる俳人は「吾亦紅」に一入(ひとしお)の思い・想いを託すようです。その理由や動機は何でしょうか。順不同で、いくつかを。

・吾亦紅母にちかづくごとくなり(松村蒼石)  ・吾亦紅生きて時間の流れけり (金田咲子)  ・目立たずも我が生ありき吾亦紅 (豊長みのる)  ・霧の中おのが身細き吾亦紅 (橋本多佳子)  ・野の花にまじるさびしさ吾亦紅 (細見綾子)

● ワレモコウ(われもこう)great burnet [学] Sanguisorba officinalis L.=バラ科(APG分類:バラ科)の多年草。ユーラシア大陸に広く分布し、日本では各地山野の草地に生ずる。は高さ30~100センチメートル、直立して上部で分枝し、茎と枝の先に短い穂状花序をつける。全株無毛。葉は互生し、生葉は長楕円(ちょうだえん)形の奇数羽状複葉で長い葉柄がある。小葉は7~11個つき、長楕円形で縁(へり)に鋸歯(きょし)があり、短い小柄をもつ。茎葉は上部にいくにつれて小形になり、無柄となる。倒卵形ないし楕円形、暗紅紫色の穂状花序は、7~9月、上部の花から開花する。花弁はなく、(がく)は暗紅紫色で4裂し、雄蕊(ゆうずい)(雄しべ)4個は萼裂片より短く、葯(やく)は黒色。根茎は太くて横走し、多数の細長い(ときに紡錘形)の根をつける。色は赤褐色。/ 漢方では、乾燥した地下部を地楡(ちゆ)といい、止血、収斂(しゅうれん)、解熱剤として下痢、赤痢、月経過多、喀血(かっけつ)、皮膚病、切り傷、湯火傷などの治療に用いる。なお、ワレモコウの漢名も地楡である。また、日本ではワレモコウに吾木香、吾亦紅などをあてることもあるが根拠はない。『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』には「ワレモコウに同名多し。ジャコウソウ(シソ科)、オケラ(キク科)、カルカヤ(イネ科)に似たる草、みなワレモコウの名あり」とある。(ニッポニカ)

 つかの間の秋晴れです。何をするでもなく、ひとりでに、人知れずに、(わが存在は消えても)時間は過ぎていく。(この島の西の方では大きな台風が暴れまわっています。被害のないことを祈りつつ)(2022/09/03)

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