三界はただ心ひとつなり

 

 ここに、六十の霧消えがたにおよびて、さらに、末葉の宿りをもむすべる事あり。いはば、旅人の一夜の宿をつくり、老いたる蚕の繭をいとなむがごとし。これを中ごろの住みかにならぶれば、また百分が一に及ばず。とかくいふほどに、齢は歳々に高く、住みかは折々に狭し。

 その家のありさま、世の常にも似ず。広さはわづかに方丈、高さは七尺がうちなり。所を思ひ定めざるがゆゑに、地を占めてつくらず。土居を組み、うちおほひをふきて、継ぎ目ごとにかけがねをかけたり。もし、心にかなはぬ事あらば、やすく他へ移さむがためなり。そのあらためつくる事、いくばくのわづらひかある。積むところ、わずかに二両、車の力をむくふほかは、さらに他の用途いらず。(「方丈記」)(2020/03/21)

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